2020年7月10日より自筆証書遺言書を法務局で保管する制度が始まりました。この制度によって、自筆証書遺言書の保管上の問題点は、ほぼクリアされたと言えるでしょう。ただし、法務局で自筆証書遺言書の様式はチェックしても、内容自体まではチェックしないので、筆者から内容について特に注意したい点を記述しました。
目次
自筆証書遺言書の作成から保管証を受け取るまでの流れ
この保管制度を使って、自筆証書遺言書を管轄する法務局に保管申請し、保管されたことの証として保管証を受け取るまでの手順を、筆者の体験を踏まえて説明します。
(参考:http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html)
自筆証書遺言書を作成する
自筆証書遺言書は、本人が自筆で遺言の本文・日付・氏名等を記入し、押印して作成します。財産目録は、2019年1月13日からパソコンやワープロで作成したり、通帳や登記簿謄本などのコピーを添付することが可能となりました。
この自筆証書遺言書を法務局で保管してもらうには、その様式について守らなければならない注意事項がいくつかあります。例えば、用紙はA4用紙を使用し、周囲に決められた幅の余白を作らなければなりません。詳しい様式上の注意事項については、法務局のホームページ(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00057.html)を参照してください。また同じページから用紙のサンプルもダウンロードできるので、必要枚数をプリントして、そこに遺言を書くようにすると便利です。
保管申請する遺言書保管所を決める
保管申請ができる遺言書保管所は、次のいずれかを管轄する遺言書保管所になります。
- 遺言者の住所地
- 遺言者の本籍地
- 遺言者が所有する不動産の所在地
実際に自分の管轄する遺言書保管所がどこかを調べるには、法務局のホームページに一覧表(http://www.moj.go.jp/content/001319026.pdf)が掲載されているで参照してください。
申請書を作成する
保管に必要な申請書は、法務局のホームページ(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00048.html)からダウンロードするか、法務局(遺言書保管所)の窓口から入手します。
申請書には、遺言者の氏名、生年月日、住所、本籍地、電話番号などを書いて、最後に署名、押印します。また、別な申請用紙には受遺者等や遺言執行者等のチェックを付けて、それぞれの氏名、住所、生年月日を記入します。
保管申請の予約をする
保管申請をするには、あらかじめ手続きをする日時の予約をする必要があります。予約方法については、法務局のホームページ(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00010.html)から申し込むか、管轄する遺言書保管所へ電話もしくは窓口に行って申し込むことができます。
保管申請をする
予約が終わったら、その日時に以下のものを持参して、管轄する遺言書保管所の窓口で申請します。必ず遺言者本人が行って申請する必要があります。介護者等と一緒でも構いません。
- 遺言書:ホッチキス止めはしません。封筒は不要です。
- 申請書:あらかじめ記入しておきます。
- 添付書類:本籍の記載がある住民票の写し等(作成後3か月以内のもの)
- 本人確認証:マイナンバーカード、運転免許証、パスポート等から一つ
- 手数料の納付:申請にかかる手数料は、1通で3900円です。収入印紙を郵便局か法務局内で購入して、申請書類のなかの添付用紙に貼り付けます。
保管証を受け取る
手続き終了後には、遺言者の氏名、生年月日、遺言書保管所の名称、保管番号が記載された保管証を受け取ります。手続きに必要な時間は、特に問題がなければ1時間程度で終わると思います。
保管以外のメリット
今回の法務局の保管制度には、保管以外にもいくつかのメリットがあります。
家庭裁判所の検認が要らない
自筆証書遺言書を開封する前には、家庭裁判所の検認が必要です。相続人等が勝手に遺言書を開封した場合には、処罰の対象となります。今回の保管制度では、相続人等が遺言書を法務局で閲覧するのに、検認の手続きが要らなくなりました。
法務局からその他相続人等への通知がある
相続人等が法務局で遺言書情報証明書の交付を受けたり、書遺言を閲覧した場合には、法務局ではその他相続人全員に、遺言書が保管されている旨の通知をしてくれます。
自筆証書遺言書を作成する際の内容についての注意点
自筆証書遺言書を作成する際の内容について、筆者から特に気を付けて欲しい注意点を3点述べます。
遺留分の侵害をしないように
配偶者や子、子がいない場合には親などの相続人には、民法で定められた範囲の遺産を受け取る権利があります。この範囲を遺留分と言いますが、遺留分を侵害する遺言を書いた場合には、侵害された相続人から遺留分を金銭で払えと要求される恐れがあります。この権利を遺留分侵害額請求権と言います。例えば、夫A、妻B、長男C、長女Dの4人家族がいたとします。Aが「俺の遺産は、妻Bと長女Dに半分ずつあげるが、長男Cには一切あげあない。」と遺言書に書いたとします。Aが亡くなり遺言が執行される際に、長男は遺留分として遺産の8分の1を受け取る権利があるので、他の相続人に対して遺留分を金銭で払えと訴訟をおこす恐れがあります。
遺言執行者を決めておく
亡くなったあとで遺言の内容を確実に執行してもらうには、費用はかかりますが、相続の実務に詳しい司法書士や弁護士などに依頼し、遺言執行者となってもらいます。遺言書には遺言執行者を記載しておくことも重要です。また、自分の長男などを遺言執行者に指名することも可能です。その場合には、事前に長男によく内容を説明し、承諾を得ておく必要があるでしょう。
付言事項を書く
遺言の内容によっては、逆に相続人の間で争いとなることも有り得ます。そうならなように、なぜそのような遺言を書いたかの理由を付け加えておくことを「付言事項を書く」と言います。例えば、特定な孫に財産の一部を相続させたい場合などでは、遺言書の最後に「(付言事項)孫のXXには、私の貯金からYY万円を相続させます。その理由は、小さい頃から一緒に暮らしてきて、今まで自分の面倒を看てもらっているからです。」などと書いておけば、相続人全員が納得することでしょう。ただし、付言事項に法的な効力はありません。
終わりに
遺言の内容が複雑な場合や、遺産に相続税がかかる場合などでは、公証役場で公正証書遺言書を作成することをお勧めします。公正証書遺言書の作成費用は、一般的な遺産額では約10万円~20万円程度です。費用はかりますが、間違いが少なく安心できます。
しかし、自筆証書遺言書には、作成費用がほとんどかからず、気軽に作成できるというメリットがあります。みなさんも法務局による保管制度を利用して、是非とも自筆証書遺言書の作成にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
村川賢 (むらかわ まさる)
村川FP事務所 代表
CFP、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、相続診断士
東京都足立区生まれ。某OA機器メーカーを早期退職し、FPとして独立。独立してから12年間、年間約30件の大手企業でのライフプラン・セミナーを実施、トータル1000件を超す個別相談を行って、クライアントに貢献している。得意分野は、ライフプラン設計・資産運用・相続など。現在は、出生地でFP事務所を開設中。