親の相続対策において、しっかりと把握しておきたいのが生命保険加入の有無です。
筆者は、顧客の相続相談に乗る際に、必ず金融資産の確認として加入されている生命保険の内容も確認せていただいていますが、よく見かけるのが、すでに更新も終わり保険期間が終わってしまっている生命保険です。
今の時代と違い、昔の「定期保険」という、期限の定まった保険に加入されていることが非常に多く、80歳を超えてくる頃にはすでに保障が残っていないという状態です。
親が当然生命保険に入っていると思い、ある程度はちゃんと残してくれるだろう、と思っていたら銀行の預金が全て、ということもよくあります。
亡くなる時にお金を残せないのであれば、何のための生命保険だったんだ、と思う方も実際にいらっしゃいます。
それでは、なぜ亡くなる際には生命保険がある方がメリットがあるのかを解説していきます。
目次
1. 生命保険には相続税の非課税枠がある
死亡保険金は「残された家族の生活保障」という大きな目的をもっている相続財産ため、限度額までは生命保険金が非課税とされています。死亡保険金の受取人が相続人の場合、受け取った死亡保険金には下記の非課税枠があります。
【500万円 ✖️ 法定相続人の数】
例えば、法定相続人が3人(妻、子2人)の場合は、
500万円 ✖️ 3人 = 1,500万円
つまり、生命保険金の合計のうち1,500万円分は相続税の課税対象にはならないということです。
これにはどのようなメリットがあるかというと、現金で1,500万円が相続される場合と、生命保険で1,500万円が相続される場合とでの違いがあるということです。
違いは下記の通りです(前提条件として生命保険金にかかる相続税率20%と仮定する)。
A.生命保険で1,500万円を遺す場合の手残り:
1,500万円 ー 相続税0円 = 1,500万円
B.現金で1,500万円を遺す場合の手残り:
1,500万円 ✖️ 税率20% = 相続税300万円
1,500万円 ー 相続税300万円 =1,200万円
いかがでしょうか。
非課税枠分は現金を生命保険に変えておくとメリットが享受できるということをお分かりいただけたかと思います。非課税枠分の生命保険は加入しておくとよいのではないでしょうか。
2. 生命保険は受取人固有の財産であり、相続財産分割の対象から外れる
生命保険金は、「受取人」が生命保険会社から直接受け取れるお金です。
つまり、「受取人固有の財産」と言われ、民法上の相続財産ではありません。そのため、民法上は相続財産分割協議の原則対象外となります。
相続財産分割協議書にも記載の必要はない為、分割で揉めそうな場合は生命保険で事前に受取人の指定をしておくことで揉め事を回避できるメリットがあります。
ただし、税法上では、被保険者(被相続人)が亡くなったことを原因として、相続人である「受取人」に対して発生する相続財産ということで、いわゆる「みなし相続財産」と言います。
つまり、相続税の課税対象にはなる、ということを理解しておきましょう。
ここで注意すべき点です。
揉め事を回避できるからといって、財産のほとんどを生命保険金にしてしまうと遺留分の請求をされた時に相続財産分割の対象になることがありますので相続財産の全体のバランスをしっかりとみる必要があります。
さらに、生命保険金に移した資産については原則遺留分の対象からは外れるため、遺留分の対象財産を減らしたい被相続人が財産を一時払いの生命保険に移すこともよく見受けられる対策ですがこれもやりすぎは禁物です。
税理士の先生や専門家としっかり現状の財産把握をして、バランスをとるようにしましょう。
3. 生命保険は相続放棄をしても受け取れる
2.のパートで記したように、死亡保険金は死亡した人の財産ではなく、受取人固有の財産であるため、相続を放棄しても死亡保険金は受け取ることができます。
例)契約者・被保険者 = 夫
死亡保険受取人 = 妻
妻が受け取った死亡保険金は「妻の固有の財産」となります。死亡した夫の相続財産とはならないため、妻が相続を放棄したとしても死亡保険金は受け取れるということです。
被相続人としては負の相続財産の方が多く、相続人には相続を放棄させたいが何も遺せないのは困る場合は、生命保険を活用し、受取人に相続人を指定すれば生命保険金を遺すことは可能です。
ただし、注意が必要です。
税法上では「みなし相続財産」ですので、相続税の課税対象にはなるということ。
また、相続を放棄した場合は相続人とはみなされないため、非課税枠の適用を受けることができません。
この場合、非課税枠の計算には、放棄をする相続人の数も含めます。
例) 法定相続人 = 妻と子2人(AとB)
相続放棄 = 子Aが放棄
受取人 = 妻と子2人(AとB)
保険非課税枠= 500万円✖️3人=1500万円
非課税の適用= 妻と子Bだけが適用される(Aは適用されない)
4. 生命保険は「最強の現金創出機能」がある
先にも記したように、死亡保険金は「残された家族の生活保障」という大きな目的をもった相続財産となります。また、相続人が相続税の納税に困らないよう、事前にできる準備の一つでもあります。
不動産や証券などの相続財産を遺すとしても、それらは相続するタイミングによって価値が変動し、どの業者や担当者が間に入るかによっても、手元に残る金額の大きさが変わってきます。つまり、保有を開始した時の被相続人の想いとは乖離が発生する可能性も大いにあるということです。
では、生命保険という金融資産はどうかというと、生命保険は、死亡時に保険会社から受け取る金額をあらかじめ契約者(被相続人)が決め、その契約を結ぶということですので、途中で解約したり減額したりしない限りは、契約時の思いがその通りの金額で実行されるということがメリットといえます。(外貨建ての場合は為替の変動あり)
また、生前に指定していた「受取人」が「現金」として受け取るので、換金する必要もなければ売却する必要もないのです。相続時にすぐに必要となる葬儀代、借り入れの返済、相続税の納税、など、現金が必要な場面で非常に助けになるのが生命保険なのです。
保険会社によっては、死亡届を提出した日、即日で振り込みを対応してくれる会社もあります。困ったときにすぐに現金が手元に用意できるというのは、最大の安心材料になるのではないでしょうか。
また「貯金は三角、保険は四角」というように、貯金の場合はその時に溜まった分だけが手元に渡るが、保険の場合はどのタイミングでも契約した保険金額が受取人に払われるという、非常に大きなメリットがあります。
保険を契約してすぐにその「万が一」の場面が発生したとしても、契約した保険金額は払われます。それが保険の魅力です。
人はいつ人生の終わりを迎えるかがわかりません。だからこそ、残す家族が困らないためにも、いつのタイミングで相続が発生しても確実に現金を遺せるように生命保険の仕組みを利用していただきたいものです。
困った時に、現金が突然創出される仕組みは、生命保険だけなのです。この仕組みをしっかりと理解し、大切な家族を守るために、生命保険を活用していただければ嬉しく思います。
勢口真理(せぐちまり)
株式会社Athena 代表取締役
上級相続診断士、ファイナンシャルプランナー、エンディングノートプランナーなどの資格を保有。
外資系生命保険会社所属時には、女性からの相談が多く、特に富裕層からの資産相談を多く受任。
2022年5月独立し、相続コンサルティング事業、ライフプランニング事業、生命保険・損害保険代理店事業を運営。
オフィス所在地:東京都葛飾区立石7-6-3-102 15サンビル
電話 :090-3681-6197
HP : https://athena-consul.com