日頃より数多くの終活・相続の相談を受けていますが、その対策の中で重要な要素になってくるのが「遺言」です。
相続対策の相談に来られる方でも初回相談の際は
- うちは財産が少ないから遺言なんていらないよ
- うちの子供たちは仲良しで揉めないから遺言は必要ないよ
と「遺言」なんて大げさなものは不要であると考えている方が大半です。
ただ、対策を進めていくに従い、遺言の必要性を強く感じて、遺言作成に進まれるケースがかなり多いのも事実です。実際に相続が発生してしまってから「遺言」があればよかったのに、と後悔している相続人の方も多くいらっしゃいます。
今回は、実例も交えて、遺言を書いたほうが良い人とはどんな人なのかをお伝えしていきたいと思います。
目次
遺言とは
遺言の種類は以下の通りです。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
それぞれに特徴があり、費用の面でも違いがあります。ここでは、それぞれの内容については省略させていただきますが、筆者は公正証書遺言の作成をお勧めする事が多いです。
公正証書遺言とは、遺言の内容を元に公証役場に文面作成を依頼し、完成した遺言書とその作成記録を同役場で保管してもらう遺言形式です。遺言の内容を公権力(注1)が正しい文書であると証明してくれるもので、個人間の決め事でも争う余地はなく、裁判上の証拠や何らかの請求手段になるという点が特徴です。
それぞれの特徴を確認しご自身に合った方法を選ぶとよいと思います。
遺言の役割
遺言は、相続財産を誰にどの様に相続させるかを記す事が役割となります。
遺言がない場合は、相続が発生後、遺産分割協議と言って、相続財産をどのように分けるかを相続人全員で話し合う必要があります。この協議がまとまらないと、銀行口座の解約や土地の相続登記等あらゆる相続手続きが前に進まなくなります。
遺言の存在でこの協議自体が不要となればかなり気が楽になります。(ただし、自筆証書遺言の場合は金融機関により遺産分割協議書が必要なこともあります。)
遺言とエンディングノートの役割の違い
※終活の中で、エンディングノートを書かれる方も増えてきています。終活に関しては前回のコラム(https://life.insweb.co.jp/souzoku/shuukatsu-ohitorisama.html)で詳しくご紹介していますので参考にしてください。
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終活とおひとりさま
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エンディングノートの役割
前述した遺言の役割が財産の分割を担うものに対して、エンディングノートは財産分割以外のすべての事という位置付けになると思います。
例えば
- お葬式の方式や呼んでほしい人、呼んでほしくない人
- お墓の事(最近は海洋散骨や樹木葬等多様化しています)
- もし介護状態になってしまったら、又は認知症になってしまったら
- 延命治療は?
など、ご本人の意思を残しておくことで残された家族(以下家族と表記)も困らないし、ご本人にとっても安心できるのではないでしょうか?
エンディングノートと遺言どちらが大事?
「エンディングノート」には法的効力はありませんが、残しておくと家族が困る事が少なくなります。万が一亡くなられた後、家族は悲しみに暮れる暇もなく葬儀等次から次へと取り組まなければならない事が発生します。そんな時「エンディングノート」でご自身の意思を示しておけば、迷うことなくスムーズに事を進めていけるようになります。家族にとってもご自身にとっても役に立ちますね。
「遺言」は法的に遺産分割の方法を記したものになります。家族で話し合う必要もなくスムーズに遺産分割が行われます。
「遺言」と「エンディングノート」は役割も異なりますし、両方準備する事により、ご自身の意思を反映したスムーズな相続(笑顔相続)のための、充実した準備が可能になる事がわかっていただけると思います。
【実例】遺言を書いた理由とは
実例①『ご自身亡き後のペットのための遺言作成』
遺言を書こうと思ったきっかけ
かわいい猫と暮らしている女性の終活サポートを行っていましたが、サポートを進めていく中で、もしご自身が亡くなってしまった場合、猫の行く末は?という事が問題となりました。
そこで対策として考えたのは、
- 知合いの方で猫を飼っているお宅に、養育をお願いしたい。(事前にお願いし了承を得ておく)
- ご自身が亡くなるまでは猫と一緒に過ごし、亡くなった時は準備してある養育費と猫を知り合いの方に預けて養育してもらう。
という事でした。これなら安心してずっと猫と暮らしていけます。
ただ、猫と養育費をその方に渡すための手段が問題となります。ご自身が亡くなった後相続人以外の方に財産を渡すのでスムーズにいかないケースも考えられます。
遺言の効果
解決策として遺言を残すことにしました。遺言に猫の委託先と養育費を明記し、遺言執行者にその手続きを託すことにしたのです。これは、遺言を書かなければ難しいケースでした。
更に、遺言を書くことになり、詳細を打ち合わせした結果、その他の懸念事項も浮き彫りになり、結果的に全ての対策を網羅した公正証書遺言が出来上がりました。
実例②「三姉妹仲良く分けてね」を実現するための遺言作成
遺言を書こうと思ったきっかけ
数年前にご主人を亡くされ、自宅に一人で暮らす女性からの相談でした。お子様が三人いて、それぞれが家庭を築き幸せに暮らしているとの事で、ご自身の遺産は三人の子供で法定相続分通り仲良く3等分してくれたら良い、という想いを実現するための相談でした。
親子関係も良好で三姉妹も仲が良く問題はなさそうでしたが、実は三等分という所に問題がありました。遺産の半分ほどが不動産だったのです。不動産の中には、現在暮らしている家や土地の他に、別荘地や山林などもあります。
お母さんは、これらの不動産も三人の共有名義として三等分すればいいと考えられていたのですが、ここが問題でした。不動産の共有については将来的に多くの問題を抱えていることはよく知られています。例えば、後々売却を考えた際三人の足並みが揃わないといけませんし、三姉妹のうち誰かが建物をリフォームしたいと思っても単独では出来ません。
遺言の効果
そこで、遺言を残す事にしました。不動産の共有を避けた上で、なるべく三等分を実現するための遺言を考えました。相続が発生した後、相続人は全員で遺産をどのように分けるかの協議をしなければなりません。その際、些細な事からもめごとも起こりやすいものです。特に不動産は簡単に分けられるものではないので、大変です。遺言を残しておけば、相続人は助かります。
「笑顔相続」実現のため、遺言作成に加え大切なことは、お母さんの想いがお子さんに伝わっている事だと思います。そこで、お母さんが決めた分け方をお母さんが元気なうちに三姉妹に伝える事にしました。お母さんの気持ちを乗せて、三姉妹なるべく均等にという事と三人仲良く暮らして行って欲しいという気持ちを伝えられた家族は、今までより仲良くなり、今後お母さんのこれからの人生をみんなで支えあう約束も出来ました。「遺言」を書く事で「笑顔相続」の完成です。
※この様な実例を見てみると、遺言を書くべき人は決して特別な人ではないという事が判ると思います。
遺言を書くことを検討したほうがいい人は?「実はほぼ全員」であること。
遺言を書いたほうが良い人はどのような人でしょうか?具体的に挙げてみます。
- 複数の相続人がいる人
- 特定の相続人に相続してほしい財産がある人
- 財産の中に不動産がある人
- 相続人同士で遺産分割の話し合いが円満に進んでほしいと願う人
- 相続人以外の人に寄付や遺贈をしたいと考えている人
- ご自身の遺産の理想の分け方を相続人に示しておきたい人
- ペットを飼っている人
などなど
まとめ
「遺言」と聞くと、一部の特別な人が考える事、といったイメージがあると思いますが、実はそうではないのだという事をわかっていただけたと思います。
相続の現場では、「遺言があればこんな事にはならなかったのに」というケースが多いのも事実です。遺言の存在が私たちの目指す「笑顔相続」の分岐点とも言えます。
「遺言」は決して一部の人が作るものではありません。ほぼ全員の方に必要なものであり、残された家族の円満な未来のための道標と言えます。
このような気持ちで「遺言」と向き合い、まずは検討から始めてみてください。
最後までお読みいただきありがとうございます。お読みいただいた方々の「笑顔相続」実現のお役に立つ事が出来たら幸いです。
注1:国または公共団体が支配権者として国民に対してもっている権力。また、その権力を行使する主体。
(goo国語辞書より公権力(こうけんりょく)の意味 - goo国語辞書)
栗原久人
笑顔相続サロン®静岡代表
FP事務所 LP想暖や代表
保険代理店 有限会社シー・フィールド代表取締役
上級相続診断士・終活カウンセラー・ファイナンシャルプランナー(AFP)生前整理カウンセラー・住宅ローンアドバイザー・承継寄付診断士
ファイナンシャルプランナー歴・保険代理店経営歴共に20年、ライフプランや家計の見直し等の相談件数は2000件以上。オンライン相談もフル活用。
2019年笑顔相続サロン®静岡を開設 特に相続診断士×ファイナンシャルプランナー×終活カウンセラーの要素を活かした、終活+生前+相続のトータル対策を得意としている。