ひとり暮らしをしていると、自分が死んだらどうなるのだろうかと気にかかることはありませんか?死んだら役所がなんとかしてくれる、担当しているケアマネジャーがなんとかしてくれると思っていませんか?
死んだ後のことなんて考えても仕方がない…と思う人でもできれば他人に迷惑をかけずに逝きたいと漠然と考えているのではないでしょうか。
自分が亡くなったあとの葬式の手配や市町村への死亡手続き、残った入院費の支払いは誰がするの?などわからないことだらけ…おひとりさまが準備すべき死後事務委任契約について解説していきます。
目次
誰もがおひとりさま予備軍
65歳以上のひとり暮らしの男女は年々増えており今後も増加傾向です。
なかには生涯独身で身寄りのない方ももちろんいます。ひとり暮らしの事情は、人それぞれです。
配偶者や子と死別した方、配偶者と離婚された方、子が独り立ちした方もいるでしょう。
つまり、今、家族と暮らしていても誰もがおひとりさまになるかもしれないのです。
出所:内閣府「令和3年版高齢社会白書」
令和3年版高齢社会白書(全体版) (cao.go.jp)
おひとりさまと孤立死
おひとりさまで支援を望まず社会から「孤立」する世帯も増加しています。自ら「孤立」しないようにする努力も必要です。単独高齢者の中には、病気や障害、認知症などで支援が必要と思われる状態であっても、地域とのつながりを断ち、ケアを拒否している人もいます。
このような社会的な支援を望まない「孤立」した中高年の「孤立死」が増加しているのです。
支援拒否の要因は、プライバシー意識の高まり、他人や公の世話になりたくない、または、支援を受けることの重荷感などが伴うからだろうと思われます。
自分が元気な間で、ある程度の経済力があれば地域とのつながりなどがなくても自立した生活を送ることができるかもしれません。
しかし、高齢になると誰かの支援を受けることが必要となります。
出所:内閣府「平成22年版高齢社会白書」
平成22年版高齢社会白書 第1章高齢化の状況 (cao.go.jp)
上の左のデータは、年間の65歳以上のひとり暮らしの方が自宅で亡くなっている数、この数字をもとに計算すると、全国では年間約3万人の孤独死が発生していると推計されます。
死後、長期間放置されるような孤立死は、死者自身の尊厳を損なうものであり、親族や近隣住民、家主などにとって心理的な衝撃や経済的負担を与えることとなります。
孤立をしない取り組みを本人や地域が一緒に行っていくことが超高齢化社会を突き進む日本にとって身近な問題であると言えます。
おひとりさまは亡くなったあと遺言書だけでは不十分!
多くの方が、死後のことを伝えるものとして思い浮かべるのは「遺言書」ではないでしょうか。
たしかに、遺言書も大切ですし必要です。
しかし遺言書だけではおひとりさまは不十分です。遺言書に書けることは、民法で定められています。遺言事項のみが法的な効力を持ちます。
たとえば、
- 遺産をどのように分けるか
- 婚外子を認知するか
- 遺言執行者をどうするか
- 祭祀承継者はどうするか
といったことが遺言事項になります。遺言として認められる遺言事項以外の記載をしても法的な効力はなく手続きができないということになります。
また、実際に遺言書に基づいた手続きが開始されるのは、葬儀などが一段落した四十九日の後が一般的です。つまり、葬儀のことや亡くなってすぐしなくてはならない手続きについて遺言書に記載したとしても、読まれる頃には全部終わってしまっている可能性もあるのです。
遺品整理…役所やケアマネジャーはやってくれない
相談を受ける際によく聞くことですが、「私が亡くなったあとの遺品整理などは役所がやってくれる」や「担当してくれるケアマネジャーが亡くなったあとのこともしてくれる」です。
亡くなった後の手続きで、各自治体が行ってくれるのは、墓地埋葬法第9条第1項に基づき、自治体ごとのルールに従って火葬を行い、自治体が提携している寺院などの合葬墓に納骨を行うだけというケースがほとんどです。
墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年5月31日法律第48号) |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
他の手続きや部屋の遺品整理などは、相続人や親族を捜索し連絡する自治体もあります。
賃貸などの遺品整理は、亡くなったあとの準備を自分でしておかないと不動産会社や管理会社が行うこととなり迷惑がかかってしまいます。
疎遠な親族などは、遺品整理の費用負担などの拒否から相続放棄に結びつくこともあるのです。
高齢者で介護サービスを利用していた場合は、担当のケアマネジャーがいますが、ケアマネジャーは本人が生きている間の支援を行うことが役割なので亡くなった後のことは基本出来ません。
死後事務委任契約とは
そこで、おひとりさまに知っておいてほしいのが「死後事務委任契約」です。
身近に頼れる親族がいない場合、自分が亡くなったあとの葬儀や納骨・後片付けなどをしてくれる人を見つけておくことが必要です。
死後事務委任契約は死亡直後のことをおおむねフォローすることができます。
では、「死後事務委任契約」とは、どういった契約でしょうか。
あらかじめ自分の代理人(受任者)を決めて自分(委任者)の希望どおりに死亡後のさまざまな手続きを行ってもらう契約のことです。
任せられる手続きには次のようなものがあげられます。
- 死亡時に病院や施設に駆けつけて遺体の引き取りの手配
- 死亡届の提出や火葬許可証の申請・受領
- 生前に伺った希望に沿った葬儀や埋葬・散骨に関する手続き
- 関係者への死亡通知
- 入院費・施設費など諸費用の清算手続き
- 社会保険・国民健康保険・介護保険・公的年金などの資格喪失手続き
- 行政機関発行の資格証明書返納の手続き
- 水道光熱費や電話、クレジットカードなどの各種契約解除
- 賃貸住宅の場合の住居引き渡しまでの管理と明け渡し手続き
- 住居内の遺品整理や形見分け・寄付などの対応
- SNSやメールアカウントなどの削除
- パソコン・携帯電話の情報抹消手続き
など、契約内容は自分の希望をしっかりと伝え、代理人(受任者)に行ってもらうことを詳細に決定しておくことが大切です。
死後事務委任契約は誰に頼めるの?
死後事務委任契約を結ぶ代理人(受任者)には、とくに資格は必要ありません。友人や知人にお願いすることもできます。
しかし、亡くなったあとの手続きは多くあり煩雑です。友人や知人に頼んだことでトラブルになる場合もあります。
トラブルが心配なら手続きに慣れている専門家に依頼するのがよいでしょう。依頼できる専門家は、相続診断士や弁護士、司法書士、行政書士などです。
しかし、一番大切なのは、亡くなったあとの希望を生前にしっかりと聞き寄り添ってくれる自分の信頼できる人に依頼することです。
友人や知人に依頼する場合でも専門家に依頼する場合でも、通常は親族が行う手続きを第三者が行うため、手続きを受ける側(行政や各種窓口)の対応は慎重になります。契約書に関しては公正証書で作成しましょう。
遺言書の作成と遺言執行者の指定、そして死後事務委任契約を締結しておくことが安心に繋がります。
まとめ
亡くなったあとのことを考えておくなんて、と思われて方もいらっしゃるかもしれません。死ぬことを考えたくない…高齢になればなるほど身近にせまり考えたくない問題になるでしょう。まだまだ死なんて先の話!と思っている頃から少しずつ準備することが必要です。誰もがおひとりさま予備軍。何とかなる!ではなく、自分でなんとかしておかないといけない長寿社会がやってきます。
この記事を読まれた方の不安を取り除き、自分が亡くなっても大丈夫!迷惑をかけないように準備しておこうと前向きに取り組むヒントになれば幸いです。
小笹 美和(おざさ みわ)
笑顔相続サロン®京都代表 京都相続診断士会会長
株式会社ここはーと相続事務所 代表取締役
(一社)社会整理士育成協会 事務局長
上級相続診断士、終活カウンセラー1級、介護支援専門員などの多数の資格を持ち、
終活・相続・介護を専門分野とする相続コンサルタント。
介護福祉業界に長年勤め、ケアマネジャーや訪問調査員などで高齢者との1,000件を超す面談実績を持つ。高齢者にわかりやすい説明とヒアリング力で介護にも強い相続診断士として相続や介護相談を受けている。