「空き家を相続したくない…。」
田舎に住んでいる両親の家屋を相続することになるような場合、すでに都会などに移り住んでいるのであれば、不必要になることも多いでしょう。
借り手や買い手が付かないような資産価値のない家屋であれば、相続することによって固定資産税などの支払いが必要になります。
そのような物件であれば相続せずに、「相続放棄」を選択しようとする方も多いのではないでしょうか。
しかし、相続放棄しても空き家がなくなる訳ではなく、必ずしもすべての責任が放棄できないために、さまざまな問題が残ってしまうことになります。ここでは、空き家を相続したくないという方に向けて、空き家を相続放棄する問題点とその解決方法についてお伝えしていきます。
目次
空き家を相続放棄しても残ってしまう問題点とは
「空き家を相続放棄すると、空き家の管理責任を免れることができる!」
そのように安易に考えてしまう方が多いのですが、実は相続放棄しても残ってしまう問題点がいくつかあります。
詳しく解説していきましょう。
相続放棄した空き家が倒壊…損害賠償は誰が!?
古い家屋の場合、何かのきっかけで倒壊してしまうようなことがあります。
雨や風が強い場合には、屋根が吹き飛んだり、崩れてしまったりすることもあり、近隣に被害を与えてしまうようなことも考えられます。
もし相続した空き家が、そのような状況で近隣に被害を与えてしまった場合には、損害賠償の責任が生じます。
空き家の所有者がその損害を賠償する責任があると民法で定めているからです。
では、相続放棄した空き家が倒壊してしまったような場合、その被害の責任は誰にあるのでしょうか。
冒頭にもお伝えした通り、相続放棄をしたからといってその空き家がなくなる訳ではなく、責任がすべて放棄できる訳でもありません。
そのため、新しい空き家の管理人が見つかるまでは、相続人となったものが管理し続けなければならないことになっています。
つまり、このようなケースが実際に起きてしまった場合には、相続放棄しているとしても損害を賠償しなければならないこともあるのです。
空き家を相続放棄しても残る管理義務
空き家を相続放棄した場合には、その管理責任について次のように定められています。
「相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は相続放棄をしたときは、この限りではない。(民法第918条1項)」
この規定では、相続した空き家の管理責任について定められていますが、相続放棄することによって責任が免れるように読み取ることができます。
しかし、相続放棄について次のような条文が存在します。
「相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。(民法第940条)」
つまり、相続人が相続放棄したとしても、次の相続人が管理を始めるまでは、管理し続けなければならないということなのです。
そのため、倒壊などによって近隣に被害を与えてしまったような場合には、相続放棄していたとしても損害賠償の責任が生じることになるのです。
「特定空き家等」に指定されると解体費用のうえに固定資産税が6倍になることも!
そもそも倒壊の危険性があるような空き家の場合、行政から「特定空き家等」に指定されてしまうことがあります。
「特定空き家等」とは、周辺の生活環境を守るために、空き家を放置することが不適切だと判断される場合に認められるものです。
例えば「特定空き家等」に指定されることによって、倒壊など近隣に対して悪影響を及ぼすような危険性がある場合、改善の「勧告」などを受けるようなことがあります。
場合によっては、管理者に変わって行政が空き家を解体するなどの改善を図ることもあります。
「行政代執行」と呼ばれるものですが、その費用については空き家の所有者や管理者が負担しなければなりません。
また、「特定空き家等」に指定されたあとに行政から改善の勧告を受けると、「住宅用地の軽減措置特例」の対象から除外されることになります。
その影響で固定資産税は最大で6倍に、都市計画税においても最大で3倍になる可能性があります。
「住宅用地の軽減措置特例」とは、建物が存在する場合に適用されるもので、200㎡までは固定資産税が1/6に減額、都市計画税が1/3に減額され、200㎡を超える部分にはおのおの1/3に減額されます。
しかし、この適用がなくなってしまうために、税額負担が大きくなってしまうのです。
つまり、行政代執行によって更地にされてしまうと、解体にかかる費用の負担に加えて、最大で6倍になる固定資産税を支払い続けなければならない可能性があるということなのです。
相続放棄した空き家の管理義務はいつまで続くのか
では、相続放棄した空き家の管理義務は、いったいいつまで続いてしまうのでしょうか。
新しい管理者が現れるまでは、相続放棄をしても管理義務を負ったままになりますので、相続放棄をする意味がないと感じてしまうのではないでしょうか。
ここで、民法には次のように定められています。
「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とする。(民法第951条)」
「前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。(民法第952条)
仮に、相続人全員が相続放棄をする場合、新しい管理者である相続人は存在しなくなってしまいます。
そのような場合には、この条文に定められている通り、相続財産は法人のものとなり、相続財産を管理する相続財産管理人を選任する必要があるのです。
では、次に相続財産管理人の選任方法についてお伝えしていきましょう。
相続人全員が管理責任を終了させ相続放棄するには
空き家の状況によっては、誰もが相続を拒むようなケースもあります。
もし相続人全員が空き家の管理の継続が難しいような場合においては、家庭裁判所に申立をすることによって、「相続財産管理人」を選任してもらうことができます。
相続管理人が選任されると、民法に定められた手続きによって、空き家の権利を国に帰属させることができます。
国に帰属されることによって、空き家の管理責任を終了させることができるのです。
相続財産管理人の選任
相続財産管理人を家庭裁判所で選任してもらうためには、相続人など利害関係人などから被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。
家庭裁判所に申し立てがなされると審理が開始され、空き家を管理するもっとも適任とされる第三者である「相続財産管理人」が選ばれます。
相続財産管理人が選任され、最終的に空き家が国に帰属されるまでは、少なくとも1年程度かかることになります。
相続財産管理人が選任されるまでの注意点
新たな管理人が選任され管理を開始するまでは、空き家の管理を継続しなければなりません。
もし、相続財産管理人が選任される前に、空き家の倒壊などによって近隣に損害を与えた場合には、損害賠償請求される可能性があると理解しておく必要があります。
相続財産管理人の費用
相続財産管理人は弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることがあり、報酬は相続財産から支払われることになります。
価値のない空き家などの場合であれば、予納金の納付が求められるようなこともあります。
この予納金については、裁判所が決定することになりますが、数十万円から100万円程度になることもあります。
まとめ
空き家を相続しても残る問題点について解説してきました。
空き家を相続することになった場合、資産価値がなかったり、遠方などによって不要な場合には、相続放棄を検討することもあるでしょう。
しかし、相続放棄をしても管理責任がいつまでも残ってしまうことになります。
そのため、完全に管理責任を終了させるには、相続財産管理人の選任が必要になります。
相続財産管理人への報酬が高額になることもありますので、空き家を相続する可能性がある場合には、早めに対策しておくことが大切です。
大希企画株式会社(ダイキキカク) 取締役
一般社団法人士希の会(シキノカイ) 理事
宮川 大輝(ミヤガワ ヒロキ)
相続診断士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士などの資格を持ち、
全国の空き家空き地の利活用アドバイスを行っております。
2年連続で国土交通省の「地域の空き家・空き地等の利活用等に関するモデル事業」実施者に採択頂いております。昨年度は、日本全国の空き家空き地300件以上の解決事例があります。