相続のコラム

地主様の相続対策の注意点

投稿日:2021年9月1日 更新日:

多くの不動産を所有する地主様の相続対策は、万が一の際の予想相続税を試算した上で、遺産分割対策、納税資金対策、節税対策、認知症対策を行う必要があります。

以下のご家族の相続対策を考えてみましょう。
70代の鈴木様(仮名)男性の相続対策です。

鈴木様は、先祖代々の地主様。
広大な自宅に住み、農業と不動産賃貸業をされています。
万が一の時の相続人は、奥様、長男、次男、長女の4人です。

ご自宅で奥様や長男ご家族と同居されており、次男と長女は他県に住んでいます。

鈴木様の財産は、預貯金、ご自宅、貸アパート、駐車場、複数の畑です。

鈴木様は、将来の相続について漠然とした不安を抱えているものの、何をしたら良いかわからないとのことでしたので、筆者がご相談に応じました。

鈴木様の実際の相続対策について、解説していきましょう。

遺産分割対策

鈴木様は、同居しているご長男に、将来は農業と不動産賃貸業を継いで欲しいというお考えをお持ちでした。

もし、鈴木様が遺言を書かずにお亡くなりになられた場合、奥様と子供達で、鈴木様のご希望通りに遺産分割ができるでしょうか。

次男は、長男のことをあまり良く思っておらず、実家に帰っても長男とあまり口を利かないそうです。長女も配偶者の収入が十分でなく、生活に困っているとのことでした。

もし遺産分割において、長男が自宅を含めた多くの不動産を相続するとしたら、次男や長女は不満を持つかもしれません。
遺産分割協議が決着しない場合、家庭裁判所による遺産分割調停・審判となり、時間も弁護士費用もかかってしまいます。

そして何より、これをきっかけとして、鈴木様の家族関係が壊れてしまうのは間違いないでしょう。

そうならないためにも、鈴木様には、生前にご家族間で、将来の相続について話し合うことをお勧めしました。鈴木様ご自身のお気持ちを伝え、ご家族の考えを事前に聞いてあげるべきです。

ご家族の意見が分かれても良いと思います。

どうしても折り合いがつかないようでしたら、将来、相続争いが起こらないように、鈴木様が公正証書遺言を作成されるようお勧め致しました。

公正証書遺言の作成の際は、弁護士、司法書士、行政書士等の士業のサポートを受けた方が良いでしょう。

鈴木様も、将来、ご家族が困らないように、公正証書遺言を作成することになり、筆者も証人の一人となりました。

納税資金対策

鈴木様が万が一の時は、多数の不動産を所有されていますので、基礎控除を大きく上回り、多額の相続税が発生することが予想されます。

相続税は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、原則、現金一括納付をしなければなりません。

相続が発生してから慌てないためにも、まずは生前に、相続税がどのくらいかかるのか、税理士に試算を依頼することをお勧めしました。

その際、法定相続による相続税を試算するのではなく、具体的な遺産分割を想定し、各相続人にかかる相続税がどのくらいになるのか把握します。
遺言作成済であれば、その内容に沿って試算を依頼します。

予想される相続税が、預貯金や死亡保険金から払えるのであれば、問題ありませんが、払い切れない場合は、以下の納税方法の検討が必要となるでしょう。

  • 相続した不動産を売却して納税する。
  • 不動産を担保に銀行からお金を借りて納税する。
  • 相続税の延納、物納を検討する。

不動産を売却して納税を予定する場合、どの不動産を売却するのかを、予め選ぶことが大切です。そして、いくらで売れるのか不動産業者に査定を依頼し、必要に応じて、事前に土地の確定測量を済ませておくと良いでしょう。

鈴木様も、税理士に相続税試算を依頼した結果、納税資金が足らないため、生前に駐車場を売却する準備を進めることになりました。

節税対策

財産を承継するお子様達のためにも、相続税の負担はできるだけ小さい方が良いです。以下の点を、生前に各専門家に確認すると良いでしょう。

小規模宅地等の特例の検討

相続税法では、ご自宅や事業用の土地について、相続人等が負担なく相続できるよう、小規模宅地等の特例が設けられており、要件を満たせば相続税の負担が大きく軽減します。

誰がどのように相続した時に特例が適用できるのか、生前から税理士に確認されると良いでしょう。

鈴木様の場合、ご自宅土地は奥様か同居の長男が相続した場合、アパートは賃貸事業を承継する予定の長男が相続した場合、小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。

不動産の利用の仕方のチェック

不動産の利用の仕方、土地の形状、広さ等によって、不動産の評価が大きく変わることがありますので、注意が必要です。

鈴木様の場合、貸アパートの一室を自己用の物置として使用されていましたので、リフォームして賃貸することにより、貸家建付地・貸家の評価減を拡大することになりました。

不動産の生前売却

不動産よりも預貯金の方が、生前贈与や生命保険の加入等、節税対策がし易いです。

「500万円×法定相続人の数」を限度として、相続人は、死亡保険金を相続税非課税で受け取ることができます。

鈴木様も、駐車場を売却した後は、その売却収入の一部を使って、2,000万円分の一時払い終身保険に加入することになりました。

認知症対策

鈴木様は、少々物忘れが増えてきたそうです。
鈴木様がもし認知症になってしまった場合、どのような問題が考えられるでしょうか。

契約行為ができませんので、不動産の売買契約、建物の賃貸借契約ができなくなります。また、アパートの大規模修繕が必要になった際、その工事の請負契約やその費用の支払もできなくなるでしょう。

その予防策として、民事信託と任意後見という仕組みがあります。

民事信託とは、本人がお元気なうちに、ご家族に財産の管理・処分権限を委託し、認知症になった後においても、ご家族が本人のために財産の管理・処分を託す制度です。

任意後見とは、本人がお元気なうちに、本人が認知症になった際の後見人としてご家族等を選任する制度です。

どちらの制度もメリット・デメリットがありますので、専門家によく相談されると良いでしょう。

鈴木様も、民事信託・任意後見について、ご長男と共に、専門家に相談することになりました。

まとめ

相続対策は、ご家族の構成、財産の内容、ご家族の想いに沿って、バランスよく計画して実行していくのが大切です。

鈴木様の場合は、まず相続税の試算を税理士に依頼し、予想相続税を把握したうえで、駐車場の売却、生命保険の加入、公正証書遺言の作成の順序で、相続対策を進めることになりました。

地主様の相続対策は、税務・法務・不動産が複雑に絡み合い、難しい問題です。

適切な専門家に相談し、順序立てて進めていくのが良いでしょう。


【著者プロフィール】
いわま相続不動産コンサルティング 代表 不動産鑑定士 岩間 修司
相続に強い税理士と共に、1都3県の地主様の相続対策の支援業務を行っている。
保有資格:不動産鑑定士、宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、相続診断士。

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