相続のコラム

超高齢化社会における認知症と相続対策

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日本人の寿命は年々伸びて、厚生労働省が7月30日に発表した簡易生命表によると、2020年の平均寿命は女性が87.74歳、男性が81.64歳となり、香港を除くと女性が世界1位、男性が世界2位となっています。(※1)

一方、2019年6月20日に厚生労働省老健局が発表している「認知症施策の総合的な推進について」からの将来推計によると、2025年時点で約700万人(高齢者の20%)が認知症の有病者となると推定されています。(※2)

つまり、超高齢化社会においては、どちらかの配偶者が認知症となって相続が発生する確率がとても高いと考えられます。

他界するとき、配偶者が認知症を患っているケースでは

厚生労働省が同時に発表している「年齢階級別の認知症有病率」のグラフをみると、男性では平均寿命の年齢となる82歳頃には約20%、女性の88歳頃では約50%の人が認知症を患っているようです。

(厚生労働省「認知症年齢別有病率の推移等について」から抜粋)

このようなデータから、どちらかが他界したときに、その配偶者が認知症を患っているケースも多いのではないかと推測されます。では、そのようなケースを想定した場合の相続はどうなるのでしょうか。

認知症の配偶者は遺産相続できる?

相続が発生すると、遺言書が無い場合には、法定相続分で分けるか、相続人全員で遺産分割協議を行います。自宅などの不動産の相続登記や銀行の口座解約には、遺産分割協議書の提示を求められる場合がほとんどです。

しかし、配偶者等の相続人が認知症であると遺産分割協議ができないため、代理人を立てて遺産分割協議を行う必要があります。一般的には、代理人は成年後見人等(後見、保佐、補助)がなります。成年後見人は、配偶者もしくは四親等内の親族などが家庭裁判所に申立てをして、親族もしくは司法書士や弁護士などから選任してもらいます。(※3)

成年後見人として司法書士や弁護士が選任された場合では、被後見人が亡くなるまで報酬として月2万円から6万円(財産の額などによって違う)を払い続けなけばなりません。また選任された成年後見人を勝手に変更したり解任したりすることはできません。

遺言で遺産分割を決めておく

上記のように配偶者が認知症の場合では、自分が亡くなったとき配偶者やその他の相続人に多大な負担をかけることになります。これを回避するためには、遺言で財産の分割方法を決めておく方法があります。例えば、「妻には自宅とXX銀行の金1000万円を相続させる。長男と長女には残りの金銭を半分ずつ相続させる。」などと遺言書に書いておくのです。

ただし、遺言で遺産分割を指定するには、次の3つに注意する必要があります。

遺留分に気を付ける

配偶者や子(代襲相続人を含む)、親などには、最低限相続できる権利が認められています。これを遺留分といいます。兄弟姉妹には遺留分がありません。遺言で遺産分割を指定するには、この遺留分に気を付けなければなりません。もし遺留分を侵害して遺産分割した場合、侵害された相続人には遺留分侵害額請求権として、侵害された分を他の相続人に金銭で払うように要求できる権利があります。(※4)

付言事項を書く

遺言書に法定相続分と違った遺産分割を指定した場合や、相続人でない人に遺贈したりする場合では、なぜそのような遺産分割にしたかの理由や思いを「付言事項」として書いておきます。「付言事項」には法的効力はありませんが、相続が争族とならないためにも書いておきましょう。

遺言執行者を書く

せっかく遺言書のなかで遺産分割を指定しても、遺言通りに執行してくれるか分かりません。そのために、遺言書のなかに遺言執行者を書いておきます。遺言執行者としては、未成年者で無い限り相続人を指定することもできますが、費用はかかっても司法書士や弁護士などの専門家に依頼しておく方が安心です。

遺言の形態としては、おもに公正証書遺言と自筆証書遺言があります。

公正証書遺言

口述したものを公証人が書きとり、証人2人のもとで作成してもらう遺言を公正証書遺言といいます。作成費用として被相続人の財産額や相続人の数などによって数万円から十数万円かかりますが、公証人が作成に関与することでトラブルを防止できるのでお勧めします。公正証書遺言書の原本は公証役場に保管されます。

自筆証書遺言

遺言書の様式に則り、本文を自筆して作成する自筆証書遺言もあります。財産目録は、ワープロやコピーで作成することができます。令和2年7月からは、法務局に預ける「自筆証書遺言書保管制度」も始まったので、法務局の該当ホームページを参照してください。自筆証書遺言書を作成し法務局に預ければ、家庭裁判所での検認もいらず、保管上の紛失や改竄の恐れもなくなります。(※5)

家族信託を使って、財産を子等に管理してもらう

遺言で遺産分割を決めておく方法の他に、家族信託の仕組みを使う方法もあります。自分は委託者と第1受益者、認知症の配偶者を第2受益者、子等を受託者とする家族信託を結んでおきます。こうしておけば、自分が亡くなった後でも、第2受益者である配偶者に生活費等がわたるようにできます。さらにこの方法のメリットは、自分が亡くなる場合だけでなく、認知症になった場合でも同様に有効なので安心です。デメリットとしては、信頼して財産を任せられる子等がいるかどうか、そして家族信託契約(公正証書が必須)を結ぶのに司法書士等へ報酬を払わなければなりません。報酬の額としては、数十万円以上かかる場合もあるため、依頼する司法書士等にご相談ください。

おわりに

寿命が毎年伸びることは嬉しいことですが、同時に将来認知症になる確率も高まっています。認知症になると判断能力が低下するため、法的な契約関係の手続きが自分できなくなります。今回のようなケースだけでなく、家を売却して老人ホームに入ろうと思っても認知症になるとできないなどのケースも聞かれます。そのような事がないように事前の対策が重要です。

(参考)

(※1)厚生労働省 令和2年簡易生命表の概要
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life20/index.html
(※2)厚生労働省老健局 認知症施策の総合的な推進について
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000519620.pdf
(※3)法務省 成年後見制度・成年貢献登記制度
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html
(※4)裁判所 遺留分侵害額の請求調停
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/lkazi_07_26/index.html
(※5)法務省 自筆証書遺言書保管制度
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html


村川賢 (むらかわ まさる)

村川FP事務所 代表
CFP、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、相続診断士

東京都足立区生まれ。某OA機器メーカーを早期退職し、FPとして独立。独立してからは、大手企業でのライフプラン・セミナーを実施したり、個別相談を行って、クライアントに貢献している。得意分野は、ライフプラン設計・資産運用・相続など。現在は、出生地である足立区北千住でFP事務所を開設中。

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