相続のコラム

死の瞬間に迷惑をかけないための意思表示とは

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はじめに

皆さんは、最期をどこでどのように迎えたいか考えたことはありますか?
そんな質問をされると「縁起でもない!」と怒る方もいらっしゃるかもしれません。

また、「いくら考えたってどうなるかわからない、考えたって仕方がない」と思うかたもいらっしゃるでしょう。現在、元気で日常生活をなんら問題なく過ごしていれば自分の死は想像しにくいものです。しかし、私たち人間は必ず死を迎えます。だからこそ元気な時に、自分の最期はどこでどう過ごしたいのか、またどんな治療を行いたいのか…自分の大切な人に伝えておく必要があるのです。

日本の死亡者数は増加傾向で一日あたり約3750人が亡くなる

令和2年の日本の死亡数は137万2648人で、前年の138万1093人より8445人減少しています。しかし、死亡者数の年次推移をみると、昭和50年後半から増加傾向となり、平成15年に100万人を超え、平成28年より130万人を超えるようになりました。75歳以上の高齢者の死亡数は、昭和50年後半から増加しており、平成24年からは全死亡数の7割を超えています。

(厚生労働省「令和2年人口動態統計月報年計の概況」より参照)

日本人の死因…三大疾病で50%超え!

日本人の死亡の原因を見ていくと、死因として一番多いのが「悪性新生物<腫瘍>」、いわゆるがんで、37万8385人、全体の27.5%を占め、日本人の4人に1人ががんで亡くなっている計算となります。次に続くのが、「心疾患(高血圧性を除く)」で20万5596人、全体の15%。三大疾病のひとつ、「脳血管疾患」は4番目で7.5%。3位は「老衰」の9.6%で高齢化のため今後も増える死因のひとつと言われています。

(厚生労働省「令和2年人口動態統計月報年計の概況」より参照)

ここから分かるのは、多くの方が何らかの医療処置を受けながら最期のときを迎えるということです。

75%の人が「病院」で最期を迎える

厚生労働省の統計によれば、2017年に亡くなった人のうち、病院などの医療機関で亡くなった人の割合は74.8%、自宅で亡くなった人は13.2%のみとなっています。

「自宅」で最期のときを迎えたいと考えている人は多いのですが、その望みは叶えられないのが現状です。

病院などの医療機関で亡くなる人が増えたのは、国民皆保険制度により、国民誰もが大きな負担なく終末期医療を受けられるようになったことが挙げられます。

終末期医療とは

終末期とは、老衰や疾病、障害などの進行によって、あらゆる医療がすでに効果的ではなく、余命が数か月以内と判断されたあとの時期を示します。

その終末期に行われる医療が、終末期医療でターミナルケアとも呼ばれています。

人生の最期を自分らしく過ごし、満足してそのときを迎えることを目的とし、延命のための治療は行わず、痛みや不快感だけを取り除き、穏やかな生活を送ることを優先します。

では、終末期医療は具体的にどのような対応がなされるのでしょうか。

<身体的ケア>

主に医療従事者が担当し、痛みや不快感を取り除く、もしくは和らげるための投薬が行われます。その他に一般的な介護同様、食事や入浴、排せつなどの介助、着替えや移動といった日常的なケアがなされます。口から食事や水分が摂取できなくなると経管栄養や点滴などで栄養補給を行います。この場合は延命治療となるため事前に本人や家族の意思の確認を行い実施するかどうかを決定します。

<精神的ケア>

死を目前に控えた患者さんは、死に対する不安や恐怖、遺される家族への心配などから精神的に不安定になる場合があります。その感情に寄り添い、心穏やかに過ごせるようにサポートする精神面のケアも必要です。医療従事者や家族などの近親者が担当となります。

本人の好きな音楽を聴けるようにしたり、思い出の物や大切にしている物をそばに置くなど、本人にとってリラックスできる環境づくりが大切となります。

<社会的ケア>

終末期医療を受ける場合に、心配なことのひとつとして費用の問題です。この問題で思い詰めないように、医療ソーシャルワーカーや家族によって行われる心理的・社会的援助のことを言います。この社会的ケアには遺産相続や遺品の整理など本人が亡くなったあとのケアも含まれます。

終末期医療は、一般病院の内部にある緩和ケア病棟や療養型病院、老人保健施設、ホスピスなどで受けられます。また、本人や家族が住み慣れた自宅で最期を希望する場合は、訪問診療や訪問看護などによって在宅でのケアが実施されることもあります。

延命治療とは

そもそも延命治療とは「生命維持処置を施すことによって、それをしない場合には短期間で死亡することが必至の状態を防ぎ、生命の延長を図る処置・治療のこと」を指します。

終末期医療に移行した場合や突然の事故や疾病に備えて医療方針や延命治療をどうするのか事前に選択しておかなければなりません。

では、具体的にどんな治療が延命治療に当たるのでしょうか…

  • 心臓マッサージなどの心肺蘇生術
  • 延命のための人工呼吸器
  • 胃ろうによる栄養補給
  • 鼻チューブによる栄養補給
  • 中心動脈への点滴による栄養補給
  • 手足への動脈への点滴による栄養補給
  • 皮下への点滴による水分補給
  • 抗生物質の強力な使用
  • 輸血
  • 人工透析

延命をする・しないは極めて重要な選択となります。延命治療が始まると中止にすることは容易ではありません。延命する意味や内容を把握した上で、いざ自分が意識なく他者に意思を伝えることが出来なったらと考え、事前に意思を伝えておくことや、急な事態での混乱を避ける意味でも、意思決定の代表者や代理人を決めておくことも必要です。

終末期医療や延命治療の意思を伝える方法とは

<エンディングノート>

エンディングノートの中に医療や介護のことの希望を書けるページがあります。

その中に、病気の告知についての希望や、終末期医療や延命治療をするのかしないのか、また痛みの緩和は希望するのかなどを書いておくことができます。しかし、エンディングノートは法的な効力はなく、あくまでも自分の希望を書くノートとなってしまいます。エンディングノートに書いたことと、書いた内容を、治療方針を決めてもらう人に伝えておきましょう。

<事前指示書>

本人の意思を書面で示せるものに「事前指示書」というものがあります。高齢者が病院に入院した場合や老人ホームに入居する際に「延命治療に関する意思確認書」や「終末期医療に関する事前指示書」といった書類への記入を求められることも増えました。家にいる方でも元気なうちに事前指示書を作ることができます。

これらの書類は、本人が意思表示できなくなった場合に、どのような延命治療を受けるかどうかをあらかじめ記入しておくものです。また代わりに医療代理人を指定できる様式もあります。インターネットで検索するといろいろな様式があり、自分に合った様式を選択し記載することが出来ます。ですが、書く前に家族や医師とも相談をして書きましょう。相談せずに書いて、家族が見つけにくいところに保管しても、いざという時に役に立たないからです。

事前指示書の一例

出典:公益社団法人「日本尊厳死協会」

hyoumeisyo_202012.pdf (songenshi-kyokai.or.jp)

事前指示書も法的効力はなく、事前指示書に書かれた内容が当てはまらない場合などは、医療代理人が事前指示書の内容を尊重しながら医療者と相談し、医療者が判断した内容を医療代理人や家族に示し治療方針を決定していく仕組みとなっています。

<尊厳死宣言公正証書>

遺言書の中に延命治療をしない旨の記載をすればいいのではと考える方もいらっしゃるかもしれません。遺言書に書かれた内容に関する効力は、遺言者が死亡した時に発生するため、遺言で延命治療を拒否することはできないということになります。

尊厳死宣言公正証書は、尊厳死を希望する旨の宣言をする公正証書です。公正証書は、公証人が作成する公的な書類です。本人が尊厳死を希望していることを外部に示す書類となるので、望まない延命治療を避けることができやすくなります。

おひとりさまの場合は、公正証書で作成し、任意後見人を選任している場合などは、証人として任意後見人にも書面に署名捺印をもらい意思を伝えておくことが大切です。

まとめ

どの方法も必ずしも自分の意思通りになるとは限りません。なぜならば、医師の治療を拘束する効力までは有しないからです。しかし、尊厳死に関する認知は医師の間でも広まっており、書面があることで医師が延命治療をしないことを受け入れることも増えています。

なぜ、事前に意思を伝えておくことが必要なのか…身内が重篤な状態となり、回復の見込みがないと言われたとき、本人に伝える能力がなくなっていたら、家族が、延命治療をするのかしないのかの選択をしないといけません。つらい選択となる場合がほとんどです。深く悩み、自責の念を抱く方も多くいらしゃいます。愛する家族にそんな想いをさせないように、はっきりとした意思を伝え残すことが大切なのです。


小笹 美和(おざさ みわ)

笑顔相続サロン®京都代表 
全国相続診断士会事務局 京都相続診断士会会長
株式会社ここはーと相続事務所 代表取締役
(一社)社会整理士育成協会 事務局長

上級相続診断士、終活カウンセラー1級、介護支援専門員などの多数の資格を持ち、
終活・相続・介護を専門分野とする相続コンサルタント。
介護福祉業界に長年勤め、ケアマネジャーや訪問調査員などで高齢者との1,000件を超す面談実績を持つ。高齢者にわかりやすい説明とヒアリング力で介護にも強い相続診断士として相続や介護相談を受けている。

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