がんの治療費は高額なイメージがありますが、実際のところどれくらいかかるのでしょうか?入院・外来で自己負担額がどれくらいか、また自己負担額を抑える高額療養費について紹介します。
目次
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がん治療に必要な費用は?
入院治療の場合
傷病中分類 | 平均在院日数 | 1日あたり※1 | 1日あたり×平均在院日数 | 3割負担の金額※2 |
---|---|---|---|---|
胃の悪性新生物 | 19.2日 | 53,520円 | 1,027,584円 | 308,275円 |
結腸の悪性新生物 | 15.4日 | 57,060円 | 878,724円 | 263,617円 |
直腸の悪性新生物 | 16.1日 | 61,100円 | 983,710円 | 295,113円 |
肝の悪性新生物 | 16.9日 | 53,980円 | 912,262円 | 273,679円 |
気管、気管支および肺の悪性新生物 | 16.3日 | 58,440円 | 952,572円 | 285,772円 |
乳房の悪性新生物 | 11.5日 | 63,370円 | 728,755円 | 218,627円 |
子宮の悪性新生物 | 11.5日 | 62,750円 | 721,625円 | 216,488円 |
悪性リンパ腫 | 23.1日 | 60,550円 | 1,398,705円 | 419,612円 |
白血病 | 36.3日 | 82,860円 | 3,007,818円 | 902,345円 |
その他の悪性新生物 | 17.3日 | 54,650円 | 945,445円 | 283,634円 |
良性新生物およびその他の新生物 | 10.7日 | 67,400円 | 721,180円 | 216,354円 |
※1 1日あたりの点数を小数点以下第1位で四捨五入後、1点10円で計算しています。
※2 単純計算の結果であり、実際に窓口で支払う金額とは異なります。
出典:厚生労働省「医療給付実態調査 令和元年度」、「平成29年患者調査」
悪性リンパ腫や白血病を除き、3割負担の金額で20万~30万円かかるようです。
ステージ別の費用
治療費がどれくらいかかるかはがんのステージによって変わります。全日本病院協会の「医療費(重症度別)2019年度年間集計」より、がんのステージ別の1入院での医療費を紹介します。なお、参加病院の平均なので上で紹介したデータとは数値に差異があることをご了承ください。
1入院費用 | 3割負担(目安) | ||
---|---|---|---|
胃の悪性新生物 | ステージ0 | 687,532円 | 206,260円 |
ステージⅠ | 924,102円 | 277,231円 | |
ステージⅡ | 1,555,209円 | 466,563円 | |
ステージⅢ | 1,355,802円 | 406,741円 | |
ステージⅣ | 889,719円 | 266,916円 | |
不明 | 825,881円 | 247,764円 | |
全体 | 953,595円 | 286,079円 | |
結腸の悪性新生物 | ステージ0 | 625,611円 | 187,683円 |
ステージⅠ | 1,097,202円 | 329,161円 | |
ステージⅡ | 1,493,024円 | 447,907円 | |
ステージⅢ | 1,164,571円 | 349,371円 | |
ステージⅣ | 883,177円 | 264,953円 | |
不明 | 611,561円 | 183,468円 | |
全体 | 924,594円 | 277,378円 | |
直腸の悪性新生物 | ステージ0 | 729,366円 | 218,810円 |
ステージⅠ | 1,450,400円 | 435,120円 | |
ステージⅡ | 1,587,964円 | 476,389円 | |
ステージⅢ | 1,304,488円 | 391,346円 | |
ステージⅣ | 980,352円 | 294,106円 | |
不明 | 671,940円 | 201,582円 | |
全体 | 1,022,965円 | 306,890円 | |
気管支および肺の悪性新生物 | ステージ0 | 1,308,727円 | 392,618円 |
ステージⅠ | 1,234,497円 | 370,349円 | |
ステージⅡ | 840,631円 | 252,189円 | |
ステージⅢ | 839,730円 | 251,919円 | |
ステージⅣ | 969,961円 | 290,988円 | |
不明 | 730,150円 | 219,045円 | |
全体 | 855,040円 | 256,512円 |
出典:全日本病院協会の「医療費(重症度別)2019年度年間集計」
外来治療の場合
近年は外来での治療が増えています。外来の場合の1回あたりの医療費について厚生労働省の「医療給付実態調査 令和元年度」より紹介します。
傷病中分類 | 1回あたり※1 | 3割負担の金額※2 |
---|---|---|
胃の悪性新生物 | 40,190円 | 12,057円 |
結腸の悪性新生物 | 44,360円 | 13,308円 |
直腸の悪性新生物 | 61,290円 | 18,387円 |
肝の悪性新生物 | 44,820円 | 13,446円 |
気管、気管支および肺の悪性新生物 | 106,740円 | 32,022円 |
乳房の悪性新生物 | 57,630円 | 17,289円 |
子宮の悪性新生物 | 30,400円 | 9,120円 |
悪性リンパ腫 | 66,440円 | 19,932円 |
白血病 | 88,220円 | 26,466円 |
その他の悪性新生物 | 62,790円 | 18,837円 |
良性新生物およびその他の新生物 | 19,540円 | 5,862円 |
※1 1回あたりの点数を小数点以下第1位で四捨五入後、1点10円で計算しています。
※2 単純計算の結果であり、実際に窓口で支払う金額とは異なります。
1回あたりの3割負担の費用は1万~3万円ほどかかります。何回の通院が必要となるかはがんの状態や治療方針、治療目的などによって変わります。放射線治療の場合は月曜日~金曜日の週5日×何クールかの治療が行われます。抗がん剤治療の場合も頻度はさまざまで、毎日、週1~2回、月1~2回などを数か月~数年行います。
外来の割合が増えている
がん治療はかつては入院での治療が基本でしたが、現在では外来での治療が増えてきています。厚生労働省の患者調査によると、平成20年の調査から人口10万対の受療率について入院よりも外来の方が多い状況です。
高額療養費で自己負担額を抑えられる
上で紹介したデータによると、がん治療のために入院すると3割負担でも1回の入院で20万円~30万円といった費用がかかることが分かります。また、外来の場合は3割負担で1回1~3万円ですが、何回も通院が必要となると総額はかなり大きくなってしまいます。
このように自己負担額が高額になってしまった場合は高額療養費制度によって自己負担額を軽減させることができます。高額療養費とは、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の自己負担限度額を超えた分について後で払い戻しがされる制度です。
自己負担限度額は年齢や所得区分に応じて以下の表のように設定されています。
自己負担限度額
70歳未満の自己負担限度額
所得区分 | 自己負担限度額 | 多数回該当の場合 |
---|---|---|
年収約1160万円以上の所得者 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:年間所得※901万円超 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
年収約770万円~約1160万円の所得者 健保:標準報酬月額53万~79万円 国保:年間所得※600万~901万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
年収約370万円~約770万円の所得者 健保:標準報酬月額28万~50万円 国保:年間所得※210万~600万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
年収約370万円以下の所得者 健保:標準報酬月額26万円以下 国保:年間所得※210万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
住民税非課税者 | 35,400円 | 24,600円 |
※年間所得とは、「旧ただし書き所得」のことで、前年の総所得金額と山林所得、株式の配当所得、土地・建物等の譲渡所得金額などの合計から基礎控除(33万円)を除いた額です。 ただし、雑損失の繰越控除額は控除しません。
70歳以上の自己負担限度額(平成30年8月以降)
所得区分 | 自己負担限度額 | 多数回該当の場合 | |
---|---|---|---|
外来(個人ごと) | 入院および外来(世帯ごと) | ||
年収約1160万円以上の所得者 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:課税所得690万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 | |
年収約770万円~約1160万円の所得者 健保:標準報酬月額53万~79万円 国保:課税所得380万円以上 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 | |
年収約370万円~約770万円の所得者 健保:標準報酬月額28万~50万円 国保:課税所得145万円以上 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 | |
年収156万~約370万円の所得者 健保:標準報酬月額26万円以下 国保:課税所得145万円未満等 | 18,000円 (年間上限14万4千円) | 57,600円 | 44,400円 |
住民税非課税者 | 8,000円 | 24,600円 | - |
住民税非課税者 (年金収入80万円以下など) | 8,000円 | 15,000円 | - |
世帯合算も可能
1人の1回のみの窓口負担では上限額を超えない場合でも、複数の受診や同じ世帯にいる他の方(同じ医療保険に加入している方に限る)の受診について、窓口でそれぞれ支払った自己負担額を1カ月単位で合算することができます。ただし、69歳以下の方の受診については21,000円以上の自己負担のみ合算されます。
多数回該当の場合は上限額が下がる
過去12カ月以内に3回以上、上限額に達した場合は4回目からの自己負担上限額が下がります。上の表の「多数回該当の場合」の列の金額が適用されます。なお、70歳以上の住民税非課税の区分の方については多数回該当の適用はなく、外来(個人ごと)は8,000円、外来+入院(世帯ごと)は24,600円または15,000円の上限のままです。
計算の例
以下の事例について、3割負担での本来の自己負担額、高額療養費制度の自己負担限度額および払い戻される金額、多数回該当となる場合の自己負担限度額および払い戻される金額を計算します。
協会けんぽに加入している年収600万円、40歳のAさんが、がんを患い入院・手術した結果、その月の総医療費が100万円となった。
この場合、医療費の自己負担額は以下の通りとなります。
- 3割負担の金額:1,000,000円×30%=300,000円
- 高額療養費制度による自己負担額:80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円
払い戻される金額:300,000円-87,430=212,570円 - 多数回該当になる場合の自己負担額:44,400円
払い戻される金額:300,000円-44,400円=255,600円
注意事項
高額療養費制度の対象となるのは保険適用となる診療に対し、患者が支払った自己負担額です。医療にかからない場合でも必要となる食費や居住費、患者の希望によってサービスを受ける差額ベッド代や先進医療費などは高額療養費の支給の対象とはなっていません。
また、高額療養費を申請した場合、支給までに受診した月から少なくとも3カ月程度かかります。医療費の支払いが困難なときは無利息の「高額医療費貸付制度」を利用できる場合があります。この制度の利用可否、貸付金の水準は加入している公的医療保険によって異なりますので、ご加入先の医療保険にお問い合わせください。
公的保険適用外の費用
日本では公的保険のために医療費の自己負担は3割で済み、それでも高額になった場合は高額療養費によって自己負担額を抑えられます。しかしそれは公的保険対象の費用についてであり、入院時の食事代や差額ベッド代、先進医療の技術料など公的保険の対象でないものは全額自己負担が必要です。代表として、食事代、差額ベッド代、先進医療の技術料がそれぞれどれくらいかかるのか紹介します。
入院中の食事代
入院中に病院で提供される食事代は全国一律で1食460円です。住民税非課税世帯の場合は1食210円、住民税非課税世帯の方で過去1年間の入院日数が90日を超えている場合は1食160円となります。仮に15日入院し、各日3食とも提供を受けた場合、460×3×15=20,700円かかることになります。
差額ベッド代
差額ベッド代にかかる費用は入院する病院・病室によって変わります。厚生労働省 平成29年1月「第370回中央社会保険医療協議会・主な選定療養に係る報告状況」によると、平成28年7月1日現在で1日当たり徴収額の最高値は378,000円、最低値は50円です。1人部屋~4人部屋でのそれぞれの平均値は以下の通りです。1病室の人数が少ないほど高くなる傾向にあります。
部屋の種類 | 1日あたり平均差額ベッド代(推計 |
---|---|
1人室 | 7,797円 |
2人室 | 3,087円 |
3人室 | 2,800円 |
4人室 | 2,407円 |
合計 | 6,144円 |
出典:厚生労働省 平成29年11月「第370回中央社会保険医療協議会・主な選定療養に係る報告状況」平成28年7月1日現在
先進医療の技術料
先進医療による治療を受ける場合、その技術料は公的医療保険の対象外なので全額自己負担となります。
例えば、総医療費が100万円でそのうち20万円が先進医療の技術料、残りの80万円が保険適用の治療であった場合、自己負担額は先進医療の20万円+保険適用の治療の24万円(80万円×3割)で44万円となります。保険が適用される分の治療費は高額療養費によって自己負担額がさらに下がることも考えられますが、先進医療の技術料については高額療養費の対象外です。
主にがんの治療に用いられる重粒子線治療や陽子線治療は高額であることで知られ、その技術料は医療機関でも異なりますが260万円から300万円程度となっています。他の先進医療の費用負担例は以下の通りです。
先進医療の費用負担(例)
技術名 | 平均入院期間(日) | 1件あたりの先進医療費用(円) | 年間実施件数(件) |
---|---|---|---|
陽子線治療 | 19.1 | 2,714,943 | 1,196 |
重粒子線治療 | 8.2 | 3,123,757 | 703 |
出典:厚生労働省 先進医療会議 令和2年度実績報告「令和2年6月30日時点における先進医療Aに係る費用」
収入の減少も考えよう
老後にがんになった場合、がんになったからといって年金が減るわけではありませんが、まだ働いているうちにがんになってしまった場合、入院期間中に働くことができなかったり、外来での治療でも時短勤務が必要になったり残業ができなくなったりして収入が今までよりも減ってしまうことが考えられます。
東京都福祉保健局による東京都がん医療等に係る実態調査報告書(平成31年3月)のうちのがん患者の就労等に関する実態調査によると、がんの罹患が分かった際に働いていた人のうち、がん罹患後にがん患者自身の収入が減った割合は 49.4%、世帯全体での収入が減った割合は 33.4%でした。パート・アルバイトの方や派遣社員の方は収入が減少した割合が特に高いですが、正職員でも47.6%と半数近くが本人の収入が減っており、さらに役職員でも21.9%が本人の収入が減っています。
まとめ
がんの治療費は3割負担で1入院で20万~30万円ほど、外来の場合は1回あたり1万~3万円ほどかかります。なお、高額療養費により1か月あたりの自己負担額は一般的な収入の方で8万円~9万円ほどで収まります。注意点として、公的保険の対象とならない食事代や差額ベッド代、先進医療の技術料などは全額自己負担が必要となります。個室や先進医療を望む場合はその費用も頭に入れておく必要があるでしょう。