相続のコラム

遺言書があれば遺族は幸せになるのか? 〜泥沼姉弟相続の事例〜

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円満な相続を迎えるには、あらゆる事前準備が有効となることは誰もが周知のことだと思います。
相続税対策・遺産分割対策・納税資金準備など、そのために、生命保険の活用や不動産の共有名義を解消したり中でも「遺言書を作成すること」は必ずといっていいほど、生前対策の一つとして多く提案されるのではないでしょうか。

遺された家族が、遺産の分け方で揉めないように、円満に過ごせるようにと、その為の「遺言書」であるはずが、その内容によっては、家族の誰かが非常に辛い思いをするということも起き得る。そのことを弊社で相談を受けた事例でご説明いたします。

その前に、まずは「遺言書」というものが何かを簡単に解説いたします。

遺言書は、誰が、どの財産を、どの程度の割合で相続するのかを指定するものです。
相続させる内容を指定することができる、または「相続させない」と指定することも認められており、指定された内容は、遺産相続において「被相続人の遺志」として最優先されます。

では、続いて「遺言書の書き方」についてです。

まずは、相続人が誰かを確認したうえで、法律の規定に則ってどの程度の割合で相続する権利があるのかを確認します。次に、相続の対象となる財産にはどのようなものがあるのかを洗い出します。預貯金や不動産などの「プラスの財産」と、借金などの「マイナスの財産」をすべて洗い出し、一覧表に整理するとわかりやすいと思います。
相続人と相続財産を把握したら、誰に、何を遺すのか、その割合を決めます。

遺言の内容が決まったら、まずは遺言書の草案を作成してみます。

遺言書の草案がまとまったら、どの方法で遺言書を残すのかの種類を決めます。

  • 自筆証書遺言 被相続人が自筆で作成する遺言書
  • 公正証書遺言 遺言者が伝えた内容を公証人が書面にして作成する遺言書
  • 秘密証書遺言 遺言の内容を誰にも知られたくない場合に利用される遺言書

注意点として、遺言書があっても「遺留分」までは侵すことができませんので、士業などの専門家に相談するなど細心の注意が必要です。
「遺留分」とは、一部の法定相続人に認められた最低限の相続権のこと をいいます。
ただし、兄弟姉妹が相続人の場合は、この遺留分はありません。ここにも注意が必要です。

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さて、それでは実際にあった相談事例をお伝えしていきます。

ご両親をすでに亡くされている4人兄弟の相続の事例です。
弊社に相談に来られたのはご長男(68)でした。きょうだいの1人はすでにお亡くなりになっており、
2ヶ月前にご長女(74)が亡くなられ、近くに住んでいる次男夫婦と相続財産について揉めているとのこと。ご長女は独身、子供もいませんでしたので、相続人は2人の弟となります。

きょうだいは生前にも既にあらゆることで揉めていたそうなのですが、ご本人曰く、姉が所有されていた不動産についてはご自分も暮らしていたり、諸々の費用も負担していたということで、
相続財産は必ず遺してもらえるものだと思っていたとのことでした。

しかし、公正証書遺言が出てきたところ、その内容に愕然とされました。

「不動産を全て次男へ遺す。もし次男が先に死亡の場合は次男の妻へ。もし次男の妻も死亡の場合は次男の子へ遺す」
との記載があったのです。そして、不動産以外の財産については記載がありませんでした。また、なぜそのように相続をするのかなどの付言事項も記載はありませんでした。

つまり、莫大な不動産を一切相続できない、という、ご相談者にとってはまさに青天の霹靂とも言える事態となったのです。上記に記したように、兄弟には「遺留分」はありませんので、不動産については遺言通り、一切相続できないということを認めざるを得ません。

遺言書に記載のなかった不動産以外の金融商品(預金や保険など)についても、次男夫婦がすべて持ち出しており、そもそもいくらあったのかもわからないとのこと。

あまりにもご本人は納得がいかないため、どうしても弁護士に会って相談したいとおっしゃるので、信頼できる弁護士の事務所に一緒に訪問をしました。今までの経緯を全て説明し、遺言書の内容も確認をしてもらいました。

弁護士の見解では、遺言書は正式な要件が全て揃っており、従って内容は有効であるとのこと。
さらに、争っても勝てる見込みはなく、これ以上弁護士も出番がないということを残念がっていました。

遺言書の内容が、あまりにも次男家族に偏りすぎていることに対して、何か不自然さが残るものの何もしようがないという結論に、ご相談者はがっくりと肩を落とされて帰路につきました。

帰り道、ご相談者はこうおっしゃっていました。
「天国にいる両親に本当に申し訳ない、こんなにいがみ合ってしまって。でも、姉も弟も本当に憎い」と。

今回のケースは、遺言書があったがために、一方の弟は良い思いをし、もう一方の弟は恨みや憎しみでいっぱいの思いをする、という非常に心が痛むご相談内容でした。

もし、遺言書がなければ、きょうだいで遺産分割協議をし、それこそもっとひどい争族となったかもしれませんが、少なくともご相談者が主張をするチャンスはありました。
被相続人は既に天国にいるので、どんな理由でどんな想いでその遺言書を書いたのかは誰もわかりません。きょうだいが生前に関係を修復しておくことができていれば、こんな悲劇を生むことはなかったのではないかと思います。

家族にはそれぞれの事情があるので、専門家といえどもその問題に安易に口出しはできませんが、このような家族を増やさないためにも、「笑顔相続」のために生前の相続対策の必要性を積極的に伝えていくことの大切さを感じた事例でした。

遺言は、良くも悪くも、残された家族にとっては強烈なものなのです。
筆者は遺す側にもそれなりの自覚と責任をもって持っていただきたいと感じています。


■プロフィール■

勢口真理(せぐちまり)
株式会社Athena(アテナ)代表取締役
相続コンサルティング・保険・ライフプランニング・セミナー講師事業
上級相続診断士
笑顔相続道正会員

住所:東京都葛飾区立石7-6-3-102 15サンビル
Mail: seguchi@athena-consul.com
電話: 090-3681-6197

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