相続のコラム

空き家における「共通認識」の重要性

投稿日:2021年8月2日 更新日:

みなさまの周りには空き家はあるでしょうか。
少子高齢化が社会の大きな問題となる中、空き家問題が深刻度を増しています。
空き家に関わる全てのかたが空き家の解消に前向きに取り組んでいただければいいのですが、なかなかスムーズにいかないのも現状です。

令和2年12月16日に、国土交通省ホームページ等で国土交通省住宅局による『令和元年空き家所有者実態調査』が発表されました。
このデータは総務省が実施した『平成30年住宅・土地統計調査』において「居住世帯のない住宅(空き家)を所有している」と回答した方の中から、全国で約1万4千世帯を無作為に抽出した世帯を調査の対象としており、両調査のデータを結びつけて集計・分析することにより、効率的に、住宅・世帯の実態と空き家の利用・管理などの実態との関係性などを明らかにすることができる、とても興味深いデータとなっています。

空き家の定義

まず、総務省実施の住宅・土地統計調査における空き家の定義を見てみましょう。

居住世帯のない住宅(空き家)とは
普通世帯の世帯員が、現在居住している住宅又は住宅以外の建物のほかに所有している住宅(共有の場合を含む)のうち、ふだん人が居住しておらず、空き家となっている住宅をいいます。
ただし、一時現在者のみの住宅(昼間だけ使用している住宅や、何人かの人が交代で寝泊まりしている住宅)及び建築中の住宅、一つの世帯が独立して家庭生活を営むことができないような廃屋は、調査対象には含めません。
ここでいう「所有している」とは、登記の有無にかかわらず、固定資産税が納付されており、 現にその住宅を所有している場合、又は相続の手続き中の住宅がある場合をいいます。

また、空家等対策の推進に関する特別措置法による空き家の定義とは

建築物(建築基準法第2条第1項)又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいいます。(法第二条第1項)

とそれぞれ定義づけられています。

平成31年総務省行政評価局空き家対策に関する実態調査結果報告書より引用
https://www.soumu.go.jp/main_content/000595230.pdf

このように空き家の定義は調査の種類によって少し異なりますが、賃貸や売却をしようとしていて、普段人が居住していない住宅も空いている期間によって「空き家」と呼ばれることを知らない方も多いかもしれません。
住宅・土地統計調査では3ヶ月居住していない期間があれば「空き家」と呼ぶのに対し、空き家特措法ではその期間を1年と定めています。

空き家の取得方法や発生原因

取得方法は「相続」が54.6%と最も多く、次いで「新築・建て替え」が 18.8%、「中古の住宅を購入」 が 14.0%、「新築の住宅を購入」が5.3%となっています。

国土交通省住宅局 令和元年空き家所有者実態調査より引用
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001377049.pdf

また、空き家の発生原因も様々です。
調査によると『人が住まなくなった理由』は「別の住宅へ転居」が 41.9%と最も多く、次いで「死亡」が 40.1%、「老人ホーム等の施設 に入居」が 5.9%、「転勤、入院などにより長期不在」が 3.5%となっています。

国土交通省住宅局 令和元年空き家所有者実態調査より引用
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001377049.pdf

以上のデータからも空き家発生の全体の多くは相続が原因であることがお分かりいただけると思います。

実際に近頃は両親が亡くなり、空き家になってしまった実家をどうにかしてほしいという依頼を私たちも非常に多く受けさせていただいています。
ほとんどのケースでは遺品整理や管理すらままならず、誰もすまなくなった現在でも故人がまるで今でも住んでいるかのような状態のまま空き家にしてしまっているというパターンは私たちがよくご相談を受けるケースです。
土地の価値のあるエリアなら、コストをかけて商品として仕上げて売却する事や解体して土地として活用する事もできるかもしれません。
しかし、郊外の物件では、綺麗にするための費用をかけてもそれ以上の金額での売却は難しいケースや、法令上の制限により地域によっては解体した後は再度建築ができないこともあり、利活用方法が制限されるため放置されがちです。

そもそも家の中の荷物を放置している間に、家がどんどん朽ちていくケースも多くみられますが、晩年は施設に入所されていて相続開始時にはすでに長期間空き家だったという方も多いです。
特に日本の住宅は湿気に弱いため人が住まなくなり毎日の換気をしないようになると急速に傷みはじめます。そうすると、床や壁はみるみる痛みはじめ、躯体の腐食やシロアリなどの発生、雨漏りなどしてしまうかもしれません。
こうなってしまうと、いつの間にか相続の際には誰も欲しがることのない「負動産」として押し付け合いになり、仲の良かったきょうだいの仲もギクシャクし笑顔相続とはいかなくなります。

なぜ空き家にしておくのか?

では、所有者の方々はなぜ空き家にしておくのでしょうか?

令和元年空き家所有者実態調査での『空き家にしておく理由』のデータを見てみましょう。

国土交通省住宅局 令和元年空き家所有者実態調査より引用
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001377049.pdf

データ内では「物置として必要」が 60.3%と最も多く、次いで「解体費用をかけたくない」が46.9%、 「さら地にしても使い道がない」が 36.7%、「好きなときに利用や処分ができなくなる」が 33.8%などとなっています。

もっとも多い「物置として必要」というデータですが、空き家所有者であるご家族の荷物が急に増えたわけではないはずです。
私たちが対応するほとんどのケースでは、親が亡くなったにもかかわらず遺品整理に取り組むことができず、そのまま放置している間に家の中も外も荒廃してしまい、ご近所の方々に合わせる顔がなくなり空き家に足が向かなくなってしまったという方が多いのが現状です。

遺品整理はとても根気のいる作業です。
何気なく置いてあるペンや写真一枚にでも親との思い出が詰まっており、どうしたらいいか判断が付かなくなって全然作業が進まなくなってしまった、という相談者の方の声をよく耳にします。

空き家対策特別措置法(空家等対策の推進に関する特別措置法)とは

さらには、困ったあげく相続放棄をしてしまえばよいとの考えになる方もいらっしゃいます。
あまり知られていませんが、相続放棄をしても管理責任は免れることができず高額の請求がくる可能性があることをご存知でしょうか。
相続放棄をして所有者でなくなっても、他の新たな管理者ができるまでは管理責任者として指定されてしまうためです。
2015年2月に施行された「空き家対策特別措置法」では、空き家の適正管理をする責任が管理者にあるとされており、行政から倒壊や火災発生に危険がある「特定空き家」に指定されると、管理責任者に対し適正管理をするための助言→指導→勧告→命令がなされます。
それでも改善が見られない場合や緊急性が高いと判断された時、行政が管理責任者に変わり適正管理を行うことを行政代執行といいます。
所有者に対し改善要求を行なっても対応しない場合、行政が強制的に必要な対策を取るというものです。
敷地内のごみの撤去や、飛び出ている枝の伐採、倒壊しそうな危険な家屋の解体も行います。
行政代執行の費用は一度税金から支払われますが、その費用はのちに管理責任者に請求されることになります。
行政は相見積もりを取って安いところに発注するわけではないため、解体費用が過大になることも多く、結局自分で見積もりを取って納得できる金額で依頼をすればよかったという事にもなりかねません。
税金の債務と同じ扱いとなりますので、行政からの支払い要請に応じない場合は管理者の所有財産を差し押さえる可能性もあるということになります。

実際に2016年8月に行われた北海道室蘭市の行政代執行では築57年の木造平屋の解体に840万円もの費用が使われ、所有者が現在も分割納付中となっています。

総務省行政代執行・略式代執行取組事例集より引用
https://www.soumu.go.jp/main_content/000595224.pdf

さらに、台風の季節になると心配が増えます。傷んだ家をそのままにしていて、瓦が飛び、人にでもあたって怪我でもさせてしまったら一大事です。その賠償も管理責任者に当然に請求されることになるのです。
そのリスクヘッジのためには火災保険の加入も必要です。しかし、空き家の状態では加入できない保険がある場合や、居住している家に比べて保険料が割高になるケースもあり確認が必要です。

空き家の利用状況別の腐朽破損状態

国土交通省住宅局 令和元年空き家所有者実態調査より引用
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001377049.pdf

調査によると空き家の5割超で腐朽・破損があり、別荘や貸家・売却用等以外の「その他」の空き家では、腐朽・破損がある割合が6割を超えるというデータもあり、放置されている空き家の腐朽破損状態が浮き彫りになっています。
こうなると、負動産を通り越して腐動産になってしまいます。

空き家で困った時は

空き家は所有者の金銭的負担だけではなく心の負担ともなります。
空き家に関わるご家族全員で「この家は今後こうする」などといった「共通認識」を持ち、空き家発生は未然に防ぐ。また、空き家になってしまった場合はとにかく早期に手を打つことが重要です。一度空き家になると必ず長期化します。
空き家のことで少しでも心配になった時には、身近な空き家に詳しい専門家にまずは相談してみるといいでしょう。


笑顔相続サロン®︎千葉代表
千葉県相続診断士会会長
オハナホーム株式会社 代表取締役
菊池 聖雄(きくち まさお)

相続診断士、宅建士、AFP、5児の父。
空き家再生を生業とし、日々空き家の相談業務と再生アドバイスを行う。
年間10件以上の空き家を自身でも再生し、不動産賃貸業の大家としての顔も持つ。

-相続のコラム

Copyright© SBI Holdings Inc. All Rights Reserved.