相続のコラム

なぜ、相続に遺言が必要なのか?

投稿日:2021年3月31日 更新日:

これを読んでいるあなたの相続のイメージは、どのようなものですか?
私は、3年間で、相続・終活講演を150回以上行ってきましたが、その中でよく聞かれた言葉がこちらです。

「相続?私には財産がないから、関係ないです。」
「うちは、家族の仲が良いから、相続で揉める心配はないです。」

もしかしたら、これを読んでいるあなたも、同じように思ってらっしゃるかもしれませんね。
どれも「勘違い」があるのですが、一つずつ、見ていきたいと思います。

1、相続のイメージ

①相続は資産家だけの問題でしょ?

まずは、「相続?私には財産がないから、関係ないです。」について。

実はこれが一番、多いのですが「私には財産がない=少ない」ということかと思います。
ただ、財産が少ない人で関係ないのは、相続税なのです。

平成30年の相続税が課税された割合は、8.5%です。

(財務省ホームページ「相続税の課税状況の推移」より)

相続税を支払う必要のある人とない人の違いは何でしょうか?
それは、相続財産の金額です。

相続人が3人いた場合、4800万円以下であれば相続税はかかりません。
(3,000万円+600万円×法定相続人数なので、この場合は3,000万円×600万円×3人)

「私には財産がないから、相続には関係ない」ではなく、財産が少ない人は「相続税」が関係がない、ということになります。

②相続は、兄弟姉妹だけの問題ではない

続いて、「うちは、家族の仲が良いから、相続で揉める心配はないです。」について。

家族仲が良いことは、本当に素晴らしいことだと思いますが、
相続が発生すると兄弟姉妹(相続人)間の問題ではなくなることがあるのです。

よくあるのは、相続人の配偶者の存在。きょうだい仲が良くても、きょうだいの配偶者が、相続に口をだしてきて、争いになるというケースです。

③人は必ず相続に関わる

人の死亡率は、100%です。人は必ず相続に関わることになります。

ですが、相続は人生で何度も経験することではないため、知らないことだらけです。
では、相続に関してどのような準備をしたらいいのでしょうか?

ここからは、よくある事例をもとに、解説していきたいと思います。

2、相続の事例

①事例1:財産のほとんどが、自宅の相続

亡くなった人:夫(82歳)
相続人:妻(80歳)、長男(52歳)(別居)・長女(50歳)(別居)
財産:自宅不動産(評価額1500万円)、預金60万円

夫婦2人暮らしの夫が亡くなりました。夫の闘病生活が長く、預金も底をつきかけてきたところで、夫が亡くなりました。
妻は夫亡きあとの一人暮らしを、自宅で過ごしたいと考えています。

相続の話し合いの場で、妻が子供達に、自宅で過ごしたいことを伝え、自宅を相続したいことを話しました。長女は、同意しましたが、長男は、反対でした。

長男の言い分は、こうです。

「俺だって、親父の介護に貢献してきたし、そのために仕事を休んだりしたんだから、その分は相続したい。法律によると、俺には1/4の権利があるんだから、390万円を相続できる。せめてそれくらいは、欲しい」

妻は、困りました。これから一人暮らしになり、入院したり介護が必要になった時に、どれだけのお金がかかるかわかりません。長男に、それだけのお金を渡してしまったら、不安で仕方がありません。

②事例2:仲の良い家族が、相続で揉めた

亡くなった方:母(90歳)
相続人:長女(母と同居)(65歳)・次女(63歳)・長男(58歳)
相続財産:自宅不動産(評価額1500万円)、預金1500万円

母は長女家族と同居しており、長女家族が献身的な介護をしてきました。介護のために、仕事を休むこともしばしばありました。その後、母が亡くなりました。

四十九日が終わり、相続の話をすることなりました。

次女「自宅は、お姉ちゃんが貰ってよ。お母さんの介護をしてきてくれたのだから、その分、多く相続しても良いよね」
長男「それでいいと思うよ。姉ちゃんには、本当に感謝しているよ」

話し合いの結果、

長女:自宅(1500万)・預金750万
次女:預金375万
長男:預金375万

で相続することに決まりました。

長女は、遺産分割協議書を作成し、次女と長男へ遺産分割協議書を送りました。
後日、返送されてきたのは、なんと弁護士からの内容証明郵便でした。
依頼人は、長男です。内容は「法定相続分に応じた、遺産分割を主張する」内容でした。

長女が、長男に電話をしてもつながりません。

長男の代理人弁護士と面談し、話をしましたが、話は平行線のまま・・・。

最終的には、長男の主張通り

長女:自宅(1500万円)
次女:500万円
長男:1000万円

で相続することになったのでした。

長男の話が変わってしまった原因は、長男の妻でした。長女が折れて、長男が申し立てたとおりの遺産分割となりました。
この結果、長男一家と交流が途絶えたことは、言うまでもありません。

3、必要な事前準備

では、ここからは2つの事例で、どのような準備をすれば揉め事を回避する事ができたのかを考えてみたいと思います。

①事例1:財産のほとんどが、自宅の相続

相続人の希望をまとめると

  • 妻が、終生自宅に住みたい
  • 長男は、法定相続分に応じた遺産分割をしたい
  • 長女は、母にすべて相続してもらいたい

【解決案】

相続の準備としてまず挙げられるのは、遺言です。夫が「全ての財産を妻へ相続させる」と書けば、妻と長女の希望は叶えられたでしょう。ただし、長男の希望は叶えられません。子供が相続人の場合、「遺留分」という相続人が最低限相続できる権利がありますので、長男は遺留分の請求をすることができます。

長男との希望を調整した場合、このような方法もあります。夫は遺言で、「自宅は、長男へ相続させる」の他に「妻へ、配偶者居住権を相続させる」。こうすることで、妻は終生自宅に住み続けることができますし、長男は、配偶者居住権が付いた自宅ですが、相続することができ、法定相続分の取得が可能です。(配偶者居住権の評価額については省略します)

このように、夫は、家族の生活や思いを考えた遺言を書き残すことで、家族間の争いを防ぎ、幸せな相続を実現することができるでしょう。

②事例2:仲の良い家族が、相続で揉めた

これまでの経緯をまとめると

  • 長女は、献身的な介護をしてきた
  • 次女・長男は、そのことに感謝をしている
  • 長男の配偶者が口出しをした結果、きょうだい断絶

【解決案】

相続対策としては、まずは遺言です。献身的な介護をしてくれた長女へ自宅と預金を多く相続させることが可能でした。

但し、ここで注意しなければならないことは、やはり「遺留分」です。
他の相続人の遺留分を侵害する遺言には注意が必要です。

次女・長男には、遺留分に配慮した遺産を相続させる方が良いでしょう。(もちろん、家族関係・状況によってはこの限りではありません)

さらに、遺言の中に、「付言事項」という、相続人らへのメッセージを書き残すことで、将来に渡ってきょうだいが笑顔でいることができるでしょう。

4、相続は分岐点

相続は、大切な家族を失った後に必ず発生するものです。相続は、家族一人一人の人生の分岐点とも言えるでしょう。そのような時、家族が争う「争族」になるのか、故人に感謝する「笑顔相続」になるのか。それは、一重に、事前準備にかかっています。相続の事前準備の基本は、遺言です。

誰もが「笑顔相続」を実現させたいと思うではないでしょうか。そのためには、まずは遺言が必要になります。家族のためはもちろんのこと、自分自身の素晴らしい人生のためにも、笑顔相続を実現させていきましょう。


高橋正芳
笑顔相続サロン®にいがた中央代表、えんたけ行政書士事務所代表

浅草東洋館レギュラー出演の元浅草芸人。
現在は『芸人行政書士 縁竹縄(えんたけなわ)』として明るく楽しい相続・終活公演を年間50回行っている。メディア出演(NHK「おはよう!日本」、UX新潟テレビ21「まるどり!」など)。
2021年から、相続診断士事務所「笑顔相続サロン®にいがた中央」をのれん分けを受け、相続コンサルタントとしても活動を開始。

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