相続のコラム

高齢者の住まいや身のまわりのリスクと備えるべき損害保険

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高齢になると、危険を察知する判断能力、認知機能の低下による日常生活での心配やリスクが増加します。高齢夫婦やおひとりで「心配ごと」を抱えているケースも少なくありません。

そんな高齢者を取り巻くリスクの現状を知り、損害を補償する保険の存在を検証しましょう。

住宅火災の出火原因と高齢者の占める割合

「令和3年 総務省消防庁の消防統計(火災統計)」

グラフからもわかるように、出火原因の第1位は「たばこ」、2位は「たき火」、3位は「こんろ」と続きます。怖いことに「放火」と「放火の疑い」を合わせるとたばこやたき火・こんろを上回って、出火原因第1位となってしまっています。古新聞など燃えやすいものを家の周りに置かない、毎日の洗濯物を取り込むことを忘れない、などの注意も必要です。

「令和3年 総務省消防庁の消防統計(火災統計)」

近年の住宅火災による年齢階層別死者数(放火自殺者等を除く)をみると、65歳以上の高齢者(以下「高齢者」といいます。)の占める割合が約70%と高い水準で推移している状況です。
そして、高齢者が巻き込まれる住宅火災の出火原因としてとくに心配されるのが、石油ストーブや電気ストーブによるもの、仏壇のろうそくや線香によるものなど、生活に関連していることが多くあげられています。ストーブや仏壇の周辺に物を置かないなど、日ごろから火災を防ぐ対策が必要です。また、高齢になると整理整頓が行き届きにくくなるため、放置した物に火が燃え移る、床に物を置いていて避難の妨げになるなどのリスクが大きくなります。生前整理・家財整理を家族で行なう、または信頼のおける専門業者に依頼するなど、周りの人たちのサポートも必要となります。

失火責任法って?

「失火ノ責任ニ関スル法律」の略称。
過失によって火災を発生させた場合は、原則として民法上の損害賠償責任を負わないことを定めた明治32年(1899)に成立した法律です。
日本では木造家屋が多いので、いったん火災が発生すると大きな損害となり、延焼すると責任が過大となることを考慮して、火元(失火者)を守るために定められました。すなわち、失火により火元となり近隣に延焼してしまっても賠償責任を負わないという法律です。(ただし、失火者に重大な過失がある場合は除きます。)
これにより、逆に、近隣から燃え移ってきて損害を被ったとしても、失火であれば、賠償してもらうことはできないということです。
これらのことから、自分の家は自分で守る=自身の火災保険で備えることが大切です。火災保険の正しい加入のしかたは過去の記事をご参照ください。

隣家に延焼してしまった場合は?

お住まいからの失火で近隣の住宅や家財に延焼してしまった場合、前述したとおり、失火責任法により法律上の賠償責任は負いません。しかしながら、火元のかたは、経済的・精神的に大きな痛手を負いながらも近隣のかたに対していたたまれない思いをされることと推察されます。近隣のお宅に十分な火災保険が無ければなおさらです。
そんな場合に備えるのが類焼損害特約です。火災保険に特約として付帯するもので、お住まいからの失火で近隣の住宅や家財に延焼してしまった場合に、法律上の損害賠償責任がなくても、近隣の住宅や家財を補償します。
ただし、重大な過失などが原因の火災は補償対象外となります。合わせて、個人賠償責任特約が必要となります。

賃貸住宅で火事を起こしてしまった場合はどうなるの?

失火責任法では、借家人が賃借家屋に失火して家主に債務不履行(家屋返還債務の履行不能)の責任を負った場合には適用されないとしています。賃貸借契約書に原状回復義務が盛り込まれていることが一般的で、これが優先され、すなわち、賃貸住宅の借主が火事(失火による)を起こして借用部分に損害を与えてしまった場合は、大家さんに対して賠償義務を負うというものです。失火責任法では守られません。
おひとりさまの高齢者も増加しており、一般の賃貸住宅や有料老人ホームに入居するケースも増えてきています。
こういうケースに備えられるのが、借家人賠償責任保険です。
これは、通常、家財道具一式を基本とした火災保険に特約として加入します。補償額は1,000~2,000万円が一般的ですが、借用建物の構造や借用部分の面積によりますので、必ず、保険会社や保険代理店に相談しましょう。

賠償事故に備えたい

お住まいの建物の管理不行き届きや、日常生活における偶然な事故で法律上の損害賠償責任を負うことにより被った損害を補償するのが個人賠償責任保険です。通常、自動車保険や火災保険、傷害保険のなどの特約として加入します。
たとえば、
―所有しているお住まいの雨どいがズレていることを知りながらも放置していたため、落下して通行人がケガをした
―賃貸マンションで風呂水の出しっぱなしに気づかず、階下が水浸しとなる損害を与えた
―所有している別荘の屋根の管理不行き届きが原因で滑り落ち、隣家に損害を与えた
―シルバーカーを押しながら歩行中、踏切内で立ち往生してしまい電車を止めたため、多額の賠償金を請求された
などがあげられます。
なお、賃貸用の戸建て住宅やマンション建物を所有している場合の賠償事故に備えられるのは、個人賠償責任保険ではなく施設賠償責任保険です。

ケガの治療費や諸費用、手術費が心配

高齢になるにつれ、家の中や家の周りでつまずいたり滑ったりして転んでしまうリスクが増加します。骨折などにより寝たきりになるケースも少なくありません。
また、住宅火災での高齢者の死亡原因の第一位は「逃げ遅れ」によるものです。
日常生活や交通事故、建物火災での事故による死亡・後遺障害、入院・通院などのリスクに備えるのが傷害保険です。近年、各保険会社それぞれ、特徴のあるオプション補償が充実しています。たとえば、ケガによる入院時に家事代行サービスや配食サービスを利用する費用をお支払いするものなどもあります。(お支払いには諸条件があります)

まとめ

ご自身のこと、配偶者のこと、親のこと・・・など、この記事をご覧いただいているかたの立場はさまざまです。
高齢者は保険のパンフレット、見積書、申込書(契約書)、保険証券、約款などの多くの書類を見て理解することも困難になってくるものです。

お近くの親族の方や信頼できる保険のプロ、相続診断士・終活カウンセラーなどに相談・チェックやアドバイスを依頼するのも、いまできる終活の一環だと思います。


株式会社 みらいふ 常務取締役
京都相続診断士会 事務局
笑顔相続道正会員
岩井 真紀子(いわい まきこ)

相続診断士
終活カウンセラー
ファイナンシャルプランナー
損害保険トータルプランナー
IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)
昭和61年から保険業に携わり、損害保険・生命保険の取り扱いや事故解決のアドバイスをしている。
また、数々のライフプランセミナーやエンディングノートの書き方セミナー講師をつとめる実績をもち、最近は、おひとりさまの終活・相続のコンサルティングに力を注いでいる。

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