介護保険のコラム

認知症の備えとして何ができる?

投稿日:2019年11月12日 更新日:

高齢化の進展とともに認知症の高齢者の数が増えており、2025年には認知症の人は約700万人、65歳以上高齢者の約5人に1人が認知症となるという推計もあります。認知症は身近な存在となってきていますが、認知症への備えとして何かできることはあるのでしょうか。

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認知症は身近な存在に

近年、高齢化の進展に伴って認知症の人の数が増えてきています。「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授)によると、2012年における65歳以上の認知症の人は約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%)と推計されています。さらに、2025年には認知症の人は約700万人、65歳以上高齢者の約5人に1人が認知症となるとされています。

また、認知症までには至らないものの、正常な物忘れよりも記憶などの能力が低下している軽度認知症(MCI)の高齢者も2012年時点で約400万人と推計されています。認知症の人と合わせると2012年時点で65歳以上の約4人に1人が認知・判断能力に何らかの問題を抱えていることとなります。

このように、認知症は決して自分とは遠い世界の出来事ではありません。身近な存在として備えておくことが大切になります。

認知症に対してできる備えは?

バランスの良い食事や適度な運動、人との積極的な交流など、認知症予防に一定の効果があるとされているものもありますが、今のところ認知症を完全に防ぐ方法はありません。ならないための予防も大切ですが、なってしまったときのための備えもしっかりとしておきましょう。

保有財産は誰が管理する?

認知症が進行すると自分が持つ財産を適切に管理することが難しくなります。そうなってしまったときに財産の管理は誰がするのかを事前に決めておくとトラブルを回避しやすくなります。

誰が管理するのかは口約束などでなく、家族信託や任意後見制度を使ってしっかりと定めておくとより安心です。言った言わないの水掛け論を防ぐ意味合い以外にも、認知症による資産の凍結を避けられる、介護や財産管理などデリケートな話題について家族で話し合いの機会を持てるというメリットもあります。

介護費用はどうする?

介護には多くの費用がかかります。認知症に限ったデータではありませんが、生命保険文化センターの令和3年度「生命保険に関する全国実態調査」によると、介護に要した一時費用の合計が平均74万円、月々の費用が平均8.3万円です。同調査によると介護期間の平均は61.1カ月なので、介護にかかる費用は全体で平均581.1万円となります。また、直接的にかかる費用以外にも、介護のために仕事を減らすなどの収入減も考えられます。

こうした負担増にどのように備えるのか考えておく必要があります。自分で資産を十分に持っていればよいのですが、そうでない場合は民間の認知症保険なども検討してみましょう。認知症保険とは認知症の診断確定などの条件で保険金が支払われる保険です。認知症保険はまだ歴史が浅く、各社で条件などに違いがみられます。加入する場合はしっかりと条件を見比べるようにしましょう。

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損害賠償リスクは?

損害賠償リスクというとあまり関係がないことだと思うかもしれませんが、しっかりと考えておく必要があります。他人に暴力をふるう、お店などで商品を壊してしまう、徘徊で線路に侵入して電車を停めてしまうなど、認知症患者が損害賠償を負う可能性は十分に考えられます。

そうした損害賠償に備える保険として個人賠償責任保険があります。個人賠償責任保険は認知症に限らず、日常生活で他人に損害を与えて損害賠償責任を負ったときに補償を受けられる保険です。飼い犬が散歩中に通行人にかみついた、自転車の運転中に他人をひいてしまったというようなときにも利用できます。個人賠償責任保険は火災保険や自動車保険、クレジットカードの特約などで契約できます。保険料もあまり高くなく、認知症への備え以外でも十分に活用できます。

本人の希望は?

介護はできるだけ本人の希望に沿った形にしたいと考えていても、認知症が進行してしまったら本人の希望を聞きだすのも一苦労です。できるだけ自宅で過ごしたいのか、早く施設に入りたいのか、専門のスタッフにしっかりとサポートしてもらうのか、お金の使い方をどうするのかなどを聞いておくと安心です。また、よりデリケートな話題となりますが、延命治療に対する考えや葬儀、お墓に関する希望なども機会があれば聞いておけると後に悩まなくて済むでしょう。

なかなか直接尋ねにくい話題だとは思いますが、本人の希望を尊重したいのであれば、事前に聞いておくと心残りなく介護にあたれます。すぐに結論を出す必要があることでもないので、まずは意識して会話を増やしていくようにしましょう。普段の会話の延長から本人の希望が見えてくることもあります。また、「自分だったらこうしたいと思うけど、どう思う?」など、一方的に聞き出す形にせずに工夫してみることも考えられます。

相談できる先は?

介護について相談できる先を見つけておきましょう。一人で抱え込んでしまうと、自分が病気になってしまったり、悪い場合だと虐待を行ったり、介護殺人や心中を考えてしまったりします。これは決して大げさなことではありません。厚生労働省による調査では、令和3年度において市町村等が養護者(高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等)からの虐待と判断した件数は16,426件、市町村等が相談・通報を受けた件数は38,768件もあります。また、養護者による殺人や虐待による致死、心中も毎年20~30件起こっています。

こうした悲劇的なことを避けるためにも、一人で抱え込まずに相談できる先を見つけておくのが大切です。家族や親類、友人などの身近な人、それができなければ、市区町村の介護保険の相談窓口、地域包括支援センター、NPO法人、ボランティア団体、民間の企業などさまざまなところが介護についての相談を受け付けています。頼れる先があるとわかっているだけでも心の負担は取り除けるので、事前にどのようなところで相談できるのか探しておきましょう。

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まとめ

2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人は認知症になると推計されているなど、認知症は身近な存在となってきています。認知症を完全に防ぐことはできないので、認知症になってしまったときの備えについて考えておくことが大切です。財産管理や介護費用、相談できる先など認知症について一度向き合って考えてみてはいかがでしょうか。


堀田健太

著者情報

堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。

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