火災保険や自動車保険、傷害保険などの損害保険契約や更新の手続き。これまで困難なく行なってきたものが、高齢になってくると保険の提案書や約款・契約概要を読み解くことが困難となり、手続きそのものが億劫になることもあるものです。
しかし、自宅不動産を所有していたり、賃貸住宅や有料老人ホームに入居していれば火災保険契約は必要ですし、毎日のお買い物などに自動車が必要なら自動車保険は不可欠です。
高齢であっても安心して保険契約や変更手続きがするためにはどうすればよいでしょうか?
高齢者の損害保険契約手続きとは?
「保険」といっても、生命保険や損害保険、共済保険など、さまざまあります。
生命保険と損害保険の違いをご存じでしょうか?
- 生命保険は、人の生死や健康を保障対象とした保険(終身保険・医療保険など)
- 損害保険は、モノや財産を補償対象とする保険(火災保険・自動車保険・傷害保険など)
と、定義されています。
ここでは、主に損害保険について述べたいと思います。
一般社団法人 日本損害保険協会では、金融庁の「保険会社向けの総合的な監督指針」に則り、高齢者に対する保険募集のガイドラインを設けています。
ここでいう高齢者の定義は70歳以上とし、70歳未満であっても会話がかみ合わなかったり、若年性認知症により認知判断能力の低下がみられるような場合や80歳以上、といった特に留意が必要となる年齢区分を別途設定して、必要に応じ取組みを細分化するなどを求めています。
同協会では、「ご高齢者のためのそんがいほけん 3つの注意!」と題したパンフレットを作成し注意を促しています。
一部抜粋
損害保険契約の契約者とは?
火災保険や自動車保険、傷害保険などの損害保険の保険証券を見てみると、「保険契約者」「被保険者」など、名前の欄が複数あります。自動車保険には、車両所有者の欄にも名前があります。
それでは、保険契約者と被保険者はどう違うのでしょうか?
- 契約者とは、保険会社に契約の申込みをして保険料を支払う人で契約の当事者
- 被保険者とは、保険の補償を受ける人または保険の対象になる人
です。
契約者と被保険者は同一の人であることもあり、別人であることもあります。
<参考>日本損害保険協会 - 損害保険Q&A (sonpo.or.jp)
高齢者であっても、契約の当事者となり、補償内容を理解したうえでご自身が保険契約を締結する必要があります。
では、子や孫などの親族が代理で契約手続きすることはできないのでしょうか?
損害保険契約の契約手続きができる人
判断能力が低下したり、保険内容を理解することに不安を感じる高齢者はどのようにすればよいのでしょうか?
多くの損害保険会社では、代理人による手続きのルールが定められています。
手続きができる代理人とは、
- 法定代理人(親権者、未成年後見人、成年後見人、保佐人、補助人など)、任意後見人
- 同居の親族など
ここでいう「同居の親族など」とは、配偶者(同居・別居を問いません)、3親等以内の同居の親族です。 - 公正証書による委任契約に則る手続き
契約者に判断能力がない場合は、高齢者本人ではなく、成年後見人等の法定代理人または任意後見人など、有効な代理権を有する者しか契約手続きができません。
そのため、いつ体が不自由になっても支障がないように、任意後見契約と組み合わせて、財産管理等の事務に関する通常の委任契約を結んでおくことが有効な手段です。
「任意後見制度」は、本人の判断能力が正常である間に、将来、自己の判断能力が不十分になったときの後見事務の内容と、後見する人(任意後見人)を、あらかじめ、公正証書による任意後見契約を交わして登記をしておく制度です。任意後見契約は、任意後見監督人が選任されることにより、発効します。
任意後見契約は、判断能力が低下した場合に備えた契約なので、「年を取ったり病気になったりして体が不自由になったけれども、判断能力は衰えていないような場合」には発効しません。
委任契約受任者による手続きが認められていない損害保険会社もあるので注意が必要です。
また、電話による募集では代理人による手続きが認められません。さらに、認められていない手続きもあるので注意が必要です。
もちろん、「代理人による手続き」と「代筆」は違います。
さらに、契約者を親族にする方法もあります。
契約者=子など親族
被保険者=高齢者本人(不動産や自動車の所有者)
保険料支払い者=高齢者本人(口座振替などによる)
このような形の契約形態により、保険契約時の意思確認や必要な手続きは契約者となる親族が行なえます。
ただし、地震保険料控除証明書は契約者である親族に発行されるので注意が必要です。
高齢者が保険契約をする際、とくに注意する点は?
保険契約にあたり、保険会社や保険代理店などの対応で高齢者がとくに注意する点は以下のとおりです。
- 保険加入の目的や想定されるリスク・商品内容などについて、高齢者が理解しやすい言葉で優しくゆっくり、はっきりした口調で丁寧に対応されているか?
- 希望どおりの保険内容になっているか?
例えば、火災保険の場合、近年増大している台風や豪雨などの自然災害に対応できる保険内容にするためにはどの補償の組み合わせにするべきか?また、保険事故が起こった場合、損害額が実損額で支払われるか?自己負担額の設定があるか?などの説明がされているか? - 保険事故が起こった場合の連絡先の説明がされているか?
保険代理店の休業時や営業時間外の24時間対応のフリーダイヤル連絡先などはきちんと確認しておきましょう。 - 困ったときの相談が気軽に行えるか?
電話や対面で、高齢者に寄り添った丁寧な対応ができる保険代理店を選びましょう。 - 高齢者本人の希望や必要に応じ、親族等が同席したうえで、商品に関する説明を充分に行い、意思確認が行われているか?
高齢者は、保険の提案書やパンフレットの内容を読み解くことが難しくなり、保険契約に不安を覚えることも少なくありません。
可能な限り、子など親族に同席してもらいましょう。
家庭や仕事の事情でどうしても同席してもらうことができない場合は、せめて、電話で説明を聞いてもらっておくと安心です。親族が手続き時の同席や電話で会話することによって、保険期間中や満期時に、体調不良や施設入所などで高齢者本人が対応できない場合に顔つなぎができていると安心です。
昨今は、新型コロナウイルス感染症拡大などにより、対面での対応を控えることもあります。その場合、電話や郵送などでの手続きとなり、より一層の注意が必要となります。
まとめ
ご自身のこと、配偶者のこと、親のこと・・・など、この記事をご覧いただいているかたの立場はさまざまです。
お近くの親族の方や信頼できる保険のプロ、相続診断士・終活カウンセラーなどに相談・チェックやアドバイスを依頼するのも、いまできる終活の一環だと思います。
■プロフィール
岩井 真紀子(いわい まきこ)
株式会社 みらいふ
https://www.k-milife.co.jp/
常務取締役
京都相続診断士会 事務局
社会整理士育成協会 事務局
相続診断士
終活カウンセラー
ファイナンシャルプランナー
損害保険トータルプランナー
IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)
昭和61年から保険業に携わり、損害保険・生命保険の取り扱いや事故解決のアドバイスをしている。
また、数々のライフプランセミナーやエンディングノートの書き方セミナー講師をつとめる実績をもち、最近は、おひとりさまの終活・相続のコンサルティングに力を注いでいる。