相続のコラム

終活の一環として、高齢ドライバーの「運転卒業」を考える

投稿日:2021年8月2日 更新日:

高齢ドライバーが起こす交通事故が社会問題となっている昨今。運転に不安を感じたり、家族や周囲の人から「もう、免許返納して!」と言われ、悩んでいる高齢者も少なくありません。「運転卒業式」がTwitterなどでも話題になっています。

高齢ドライバーによる交通事故 現状と特徴

日本の総人口は、令和元(2019)年10月1日現在、1億2,617万人。そのうち65歳以上人口は、3,589万人、総人口に占める割合(高齢化率)は28.4%となっており、令和47(2065)年には、約2.6人に1人が65歳以上、約3.9人に1人が75歳以上と推定されています。言わずと知れた「超高齢社会」です。
<令和2年版 内閣府高齢社会白書より抜粋>
 ※全人口に対する65歳以上人口が21%を超えると超高齢社会と定義されています。

そんななか、高齢ドライバーのおこす交通事故が社会問題となっています。
図1のとおり、75歳以上の運転者の死亡事故件数は、75歳未満の運転者と比較して、免許人口10万人当たりの件数が2倍以上多く発生しています。

<図1>

75歳以上の高齢ドライバーによる交通死亡事故類型別比率は、

1位 工作物衝突(単独事故) 24%
2位 出会い頭衝突(車両相互) 14%
3位 正面衝突(車両相互) 14%

となっており、車両単独事故の割合が全体の40%と高くなっています。図2のとおり、75歳未満のドライバーの事故類型とは異なった特徴がみられます。

<図2>

図3のとおり、75歳以上の高齢ドライバーによる交通死亡事故の人的要因別比率は、

1位 ハンドルなどの操作不適(アクセルとブレーキの踏み間違い含む) 28%
2位 内在的前方不注意(漫然運転など) 23%
3位 安全不確認 22%

ブレーキとアクセルの踏み間違いを含むハンドルなどの操作不適の割合が高いのが高齢ドライバーのおこす事故の特徴です。

<図3>

<図1.2.3はすべて内閣府の特集「高齢者に係る交通事故防止」記事より引用しました>

また、内閣府の特集「高齢者に係る交通事故防止」によると、
高齢者は、加齢により、動体視力の低下や複数の情報を同時に処理することが苦手になったり、瞬時に判断する力が低下したりするなどの身体機能の変化により、ハンドルやブレーキ操作に遅れが出ることがあるなどの特性が見られます。

また,加齢に伴う認知機能の低下も懸念されるところであり、警察庁によれば、平成28年に運転免許証の更新の際に認知機能検査を受けた75歳以上の高齢者約166万人のうち約5.1万人は認知機能が低下し認知症の恐れがあるとされています。(一部抜粋)

免許返納

正確には、「運転免許証の自主返納」といいます。

運転免許が不要になった方や、加齢に伴う身体機能の低下等のため運転に不安を感じるようになった高齢ドライバーの方は、自主的に運転免許証を返納することができます。あくまでも、「有効期間内に自主返納」のため、

  • 運転免許の停止・取消しの行政処分中の方
  • 停止・取消処分の基準等に該当する方

などは、自主返納することができませんのでご注意を。(警視庁ホームページより抜粋)

申請場所や受付時間、申請に必要な書類、要件等の詳細は、各都道府県警察の運転免許センター等にお問い合わせ下さい。

高齢者が運転免許証を自主返納すれば、運転免許証に替わる身分証明書として運転経歴証明書の交付を受けることができます。また、地方公共団体により、自主返納後の支援策が設けられていることもあります。たとえば、バス・タクシーなどの利用券の交付などが挙げられます。

自動車保険等級制度

これまで、愛車を大切にし、家族や友人を乗せてドライブを楽しみ、仕事で市中を車で走り回っていた・・・そんな高齢ドライバー。免許返納や車を手放すクルマ卒業は大変しのびないことです。

車を廃車・譲渡(売却)する場合、今まで長年掛け続けてきた自動車保険も解約することになります。

多くの保険会社や共済制度では、1等級~20等級の区分、事故有係数適用期間により保険料が割引・割増されるノンフリート等級別料率制度を採用しています。新しく自動車保険契約をする場合、6等級から始まります。最高20等級まで、高い等級になるほど保険料(掛け金)の割引率が高くなる制度です。解約するときは20等級という最高等級を保持している優良ドライバーも多くみられます。自動車保険の割引が進んでいるのにやめるのはもったいない!と誰しもが考えます。

自動車保険、解約する前にちょっと待って!

中断証明書を発行する必要はありませんか?

廃車・譲渡(売却)などにより、自動車保険を解約した場合、所定の条件(11等級以上など)を満たす契約は中断証明書を発行してもらえます。「中断証明書」とは、発行後10年以内に車を取得した場合、中断前のご契約の等級や事故件数などに応じた所定の等級および事故有係数適用期間を適用することができる証明書で、発行は無料です。ご本人以外、配偶者や同居の親族も使用可能です。(中断証明書の発行と使用は、所定の条件を満たす必要があります。条件は、保険会社や取扱い代理店にお問い合わせください。)

つまり、中断証明書の活用で、10年以内ならせっかくの割引を無料で保留にできるということです。

ご家族内で複数の自動車を所有されている場合、2台目以降の自動車と車両入替する必要がありませんか?

自動車を廃車・譲渡(売却)される際、所定の条件を満たす自動車を他に所有されている場合は、2台目以降の自動車と車両入替し、ご契約の自動車の等級を引き継ぐことができる場合があります。

つまり、高い等級の契約を解約するとき、ご家族内の2台目以降の低い等級の契約と入れ替えができるということです。

自動車保険の名義変更や車両入替には条件があります

たとえば、こんなケース。

父:80歳 運転に不安を感じるようになり、免許返納、自動車売却。
長女:50歳 となり町に居住(親とは別居)、父の運転卒業を機にこれまで乗っていたセダンを売却し、父が購入(父名義)のワンボックスカーに乗り替え。
両親のお買い物や持病のための通院の送迎を手伝う予定。

自動車保険の名義変更や車両入替には条件があり、原則、同居の親族間にのみ変更が認められています。そのため、このようなケースでは、父の契約、長女の契約、どちらも変更ができませんので注意が必要です。

実際、加齢にともなう身体機能低下により障がい等級をお持ちの場合に自動車税の減免を受けられるなどの優遇措置のため、高齢者ご本人名義で購入されるケースが多く見受けられます。

自動車保険を解約すると、オプションで付けている必要な補償も消滅します

解約する契約に「人身傷害車外事故特約」「ファミリーバイク特約」「弁護士費用特約」「個人賠償責任特約」のいずれかが付帯されていませんか?

  • 2台目以降の自動車保険にこれらの特約を付帯する
  • 別の保険(傷害保険など)に付帯する
  • 該当する補償単独の保険に入る

などの手立てが必要な場合もあります。

まとめ

ご自身のこと、配偶者のこと、親のこと・・・など、この記事をご覧いただいているかたの立場はさまざまです。
高齢者は老いによる運転の危険を薄々感じながらも運転歴に自信を持っています。
私も、長年、自動車保険のご契約や事故処理に携わるなか、お客さまの高齢の親や祖父母の運転卒業を、心配するご家族と協力して説得したこともしばしば。辛いものです。
交通の便などの地域差もあります。
大きな事故をおこしてしまう前に、今後の生活の不安解消や移動手段の支援策をご家族で話し合い、上手な運転卒業を迎えていただきたいものです。こういったことを考えるのも終活の一環だと思います。


株式会社 みらいふ 常務取締役
京都相続診断士会 事務局
岩井 真紀子(いわい まきこ)

相続診断士
終活カウンセラー
ファイナンシャルプランナー
損害保険トータルプランナー
IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)
昭和61年から保険業に携わり、損害保険・生命保険の取り扱いや事故解決のアドバイスをしている。
また、数々のライフプランセミナーやエンディングノートの書き方セミナー講師をつとめる実績をもち、最近は、おひとりさまの終活・相続のコンサルティングに力を注いでいる。

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